3Dプリンターの植木鉢におけるPLA耐熱性について考察

3Dプリンターで植木鉢に限らずPLA素材を利用したプロダクトを作る際に大きな論点の一つに耐熱性というものがある。PLA素材における耐熱性の考察です。PLAの植木鉢は日本の夏を超えられるのか?

本記事について

3Dプリンタを扱ったことがない方でも読めるような内容になっています。また実際の不具合事例も掲載されています。

PLAについて

3Dプリンタでよく利用される素材(フィラメント)はいくつかありPLA、ABS、PETGなどが一般的。中でもPLA(ポリ乳酸)は3Dプリンターでは扱いやすく、また近年様々な色や機能を持ったPLAフィラメントが多く販売されていて入手性や価格の面で非常に良い。バイオプラスチックや生分解性プラスチックと呼ばれ近年の環境負荷を減らす取り組みで注目されている素材だと思う。

PLAのメリット

3DbenchyをPLAで印刷
3DbenchyをPLAで印刷
  1. 印刷しやすい
  2. 製造後の収縮が少なく、精度が出やすく造形の際の反りが少ない
  3. 臭気が少ない
  4. 種類が豊富
  5. 価格が比較的安価
  6. 植物由来であるため環境負荷が低く素材自体はカーボンニュートラル
  7. 一定の条件で土に還る

1印刷しやすい、これは非常に重要です=失敗しにくい。失敗する場合はフィラメントの品質が悪い(吸湿や粗悪)場合が多い。空間を温めなくともよいし、場合によっては印刷する面を温めなくても良い。

6と7に関しては、スプール(素材が巻かれているもの)がプラスチックだったりと製品開発において全方位で脱化石燃料というわけではない。今後はでてくるとはおもう。またマイクロプラスチックの問題に対してはそこまで大きい影響はなさそう。ただ化石燃料由来に比べると非常に環境負荷が低いと思われる。

PLAのデメリット

3Dbenchyの失敗事例、多分吸湿。
3Dbenchyの失敗事例、多分吸湿。
  1. 加工性が悪い=硬い
  2. 吸湿しやすい
  3. ややノズルが詰まりやす
  4. 耐熱性が低い
  5. 耐候性が低い(紫外線劣化)

特に野外使用、さらに水と直射日光にさらされる植物栽培の場合はそもそもプラスチック製品全般の相性が悪いがその中でも4の耐熱性に関しては大きな論点になりうる。なお耐熱性と耐候性が高いASAフィラメントというのが販売されている。下記の記事を参照ください。

PLAの耐熱性について

Polylite PLA Technical Data Sheet
Polylite PLA Technical Data Sheet

PLA(ポリ乳酸)の耐熱性について、一般的には60度程度で柔らかくなると言われる。データを公開していて信頼のおけるPolymakerのPolylite PLAのパフォーマンス情報を参考させていただくとガラス転移温度(Glass transition temperature)は61℃、(Vicat Softening temperatureは63℃)となっており大体63℃を超えると柔らかくなる。液体化は100℃以上必要です。液体化の温度を超えない限りは溶け出すことはないが柔らかくなります。冷めると固まります。

IKEAの事例(PLA素材の製品)

参考:https://www.ikea.com/jp/ja/customer-service/product-support/recalls/20210518-heroisk-talrika-pub5509a820

比較的最近の話題だと環境負荷を考えたプロダクトとして、植物由来・バイオプラスチックを利用した食器類のリコール。調べると100%PLAではなかったみたいな話はあるが、主に加熱による不具合による自主回収となったようだ。

PLAを使った植木鉢の耐熱性について

3Dプリンターで作られたSSN鉢は通常販売しているモデルの素材はPLAである。園芸において気温が60℃を超えることがないが直射日光の当たった鉢の表面温度は60℃を超える可能性はある。常時その環境にさらされると植物の根や本体自体が傷む可能性があるが、それでも温室で風通しのない状況で真夏に直射日光が当たるなどの条件では60℃を超えて柔らかくなる可能性がある。

また以前実験を行いヒートガンは持っていないのでドライヤーで温めたが手で歪ませることが可能だった。温度が冷めるとその形状で元通り固まる。ポジティブに捉えれば植木鉢を温めて歪ませる造形も可能ということですね!笑

PLAの植木鉢は日本の夏を耐えられるのか?

SSN鉢が初めて販売されたのが2020年の年末、本投稿が2021年9月中旬ということで真夏の1シーズンを越したとういことになる。自分の環境では野外無遮光10時〜16時の直射日光という環境で結果的には問題がなかった。直射日光が長時間あたり鉢が暖かくなっている状態だと鉢自体が柔らかくなってはいました、ただ溶けているわけではないのでその状態で60℃を下回るとまた固くなる。

熱で鉢の入り口付近が歪んだSSN03
熱で鉢の入り口付近が歪んだSSN03

購入者様からご提供いただいた不具合の画像。上部が歪んでいることがわかる。お話を伺うと気付いたら歪んでいたとのこと。頂いたのは2021年7月1日でまだ真夏ではない。室内の窓辺の管理とのことでしたが窓辺で表面温度60℃を超えるケースがあるかわからなく細かい原因は不明ですが、貴重な使用上の歪みのサンプル画像の提供をいただけました。また来シーズンも状況を確認していきたい。

PLAの植木鉢の熱対策①:アニール処理

実験を行なっていませんがPLA樹脂の結晶化を行なって耐熱性と強度を上げる方法。ただし素材によっては適さないのとアニール処理前提の設計(例えばinfill設定)は多少必要と思われます。

PLAの植木鉢の熱対策②:やっぱり違う素材

元も子もないですが、Polymakerの製品でのGlass transition temperature調べ。外で使うプロダクトで一番適しているだろうPolyLite ASA(97.8℃)、PolyLite ABS(101℃)、PolyLite PETG(81℃)。エンジニアリングプラスチックでPolyLite PC(113℃)、PolyLite CoPA(67℃/180℃)。3Dプリンターによる園芸用品や植木鉢を作る場合ASAがもっと色々な種類増えてくれると嬉しいなと思います。造形難易度はABSと一緒な感じでした(匂いも)

素材選定は悩ましいところがあり、販売当初は耐熱の課題を抱えていたPLAでの植木鉢を販売してよいか迷っていました。実験的プロダクト(プロトタイプ)と銘打っている理由の一つでもあります。ただ見方を変えれば「環境負荷が低い」であったりこれは購入者に負荷をかけてしまうのですが植え付ける植物、設置場所に注意いただきPLA素材の植木鉢や園芸用品を使ってゆくというのが良いのではないかと今は思っています。

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この記事を書いた人

SSN

3Dプリンタ鉢の企画、販売。植物販売など