「新しい植木鉢の可能性を探る3Dプリント鉢のプロジェクト」として1年ほど前から3Dプリント鉢を頒布を行っていますが、1年間色々試してみて見えてきたことやマーケットの変化などについて考察します。
3Dプリンタを扱ったことがない方でも読めるような内容になっています。主に3Dプリンタをいじっていない人向けに、「へぇ」って読めることを心がけた記事となっております。
まずはじめに
3Dプリンタで作る3Dプリント鉢「SSN鉢」について準備期間を含めると活動としてはもう少し長いですが、2020年12月25日に第1回の頒布を行ってちょうど1年程度が経過しました。得体の知れないプロダクトを購入し楽しんでいただけた方にはとても感謝しております。本当にありがとうございました。毎回新しい試みを取り入れ、7月には園芸誌に取り組みを掲載いただいたり、10月にはリアルフリマに出店させていただいたり。
3Dプリント鉢について、2021年の変化と今後の予想
3Dプリンタによる植木鉢は自分が活動する前から製作、販売していた方はいますし、3Dプリントにおいて花瓶(Vase)や植木鉢(Planter)は試作品としてなどでも作られる場合も多く、植木鉢という形状としては大昔から多く存在しています。3Dプリントの設定ソフトに「Vesa mode(花瓶モード)」なんて名前の設定があったりもします。
3Dプリンタ自体は2013年頃にムーブメントがありその頃に比べると圧倒的に品質は良くなったと思いますが比較すると日本では下火です(正しくは下火ではなくマーケット参入層が3Dプリンタの低価格化で一気に流入してそのまま継続もしくは辞めてしまったという方が正しいかもしれません)2013年頃ちょうどメーカーズムーブメントと言われる事象であったり、書籍「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる(クリス・アンダーソン)」が話題になっていました。自分もamazonの履歴を見ると2013年5月24日に購入していました。
以前からフィギュアなどでは活用されていましたが、建物、家具、自動車メーカー、フード、医療。国立科学博物館で開催された特別展のレポート「特別展「植物 地球を支える仲間たち」に行ってきました!」でも触れましたが3Dプリントで作られた種子が展示されていたり日常で触れる機会が増えてきたと思います。
ジャンルの確立
そういう潮流の中で、2021年は3Dプリントで作られた植木鉢を見かけるようになりました。インドア思考や副業トレンドなどがあるので同時多発的に動いたか、多少なりとも自分の活動が影響しているのかは定かではないですが2020年12月に比べると非常に増え、特徴もわかりやすいので「3Dプリント鉢」「3Dプリンタ鉢」「3D鉢」などの用語でジャンルが確立してゆくのではないかと思います。
3Dプリント品は多くは趣味のためで、FDM方式の3Dプリント品は最終製品になりにくいので趣味の範疇でビジネスになっていない(していない)ケースが多いのですが、3Dプリント鉢のジャンルは販売に結びついているというのは他のジャンルと違うところでしょうか。
デザインの多様化
「3Dプリンタで作る植木鉢の価格設定と位置づけについて」という考察で書いた通り射出プラ鉢と陶器鉢の中間かやや陶器鉢に近いところに位置するカテゴリだと思います。プラですが素材原価が高く大量生産ができず、金型などを作らないのでワンオフなどがやりやすい特徴があります。
所謂デジタルファブリケーションなので工業系のプロダクトデザイナーや3DCGクリエイターなどデジタル系スキルを持った方が参入しやすく、更に様々なデザインや形の植木鉢が出てくるのではないかと思います。トレンドはパラメトリックデザインでしょうか。
素材について
「3Dプリンターの植木鉢におけるPLA耐熱性について考察」という考察で書いたとおりPLA樹脂にはメリット・デメリットがあります。自分は好んでPLAを利用しているのですが、あまりPLA以外の樹脂で植木鉢を作っている人がいないです。記事中にも記載しましたが、ASAフィラメントの種類が増えるといずれは植木鉢においては主流な素材になるのではないかと思います。プラスチックに対して過酷な園芸ジャンルで、耐熱性と耐候性を持っているプラスチックは好ましいです。何度か輸入しましたがアメリカに比べると本当に日本で購入できる素材が限られるのが残念です。
付加価値としてエンジニアリングプラスチックと呼ばれる素材で製造した鉢も増えてくるかも知れません。植木鉢に強度は不要ですが、耐熱性や耐候性、落下した際の壊れにくさなどをプラスしてくれます。総合的な耐久性が上がると陶器鉢により近いジャンルになってゆくと思います。
製造方法について
もはや個人のハンドメイド品ではなくなりますが、3Dプリント鉢=殆どがFDMと呼ばれる樹脂を積層してゆくタイプですが、SLSやMJFという違う製造方法があります。最終製品としても耐えられる強度や品質です。機材は業務用なので4桁万円で個人がやろうとすると製造委託になりますが、2021年に小型で安価なSLS方式の「Fuse 1」というプリンタが販売されました。
実際にSLS方式に近いMJF方式でSSN鉢を作ってみましたが、非常に美しい出来上がりです。画像は1枚目はMJF方式とFDM方式で実際に販売した「SSN11」の比較です。2枚目はMJF方式で作った「SSN11」です。3Dプリントには見えない普段接している最終製品のプロダクトと一緒です。
多分MJF方式で植木鉢を作った人は世界でもあまりいないのではないかと思います!素材もナイロン11という耐候性や耐久性に優れた強度のある素材です。値段は高いですが、機材の値段が下がってくれば素材自体はFDM式と変わらず製造速度も早いため近い将来はSLS方式やMJF方式を採用した付加価値の高いより陶器鉢に近いジャンルの植木鉢が出てくる可能性もあります。
2022年も色々とチャレンジしてゆきたいとおもいます。SSNは2022年前半は「多色」が気になるテーマです。引き続きよろしくお願いいたします!