本物の植物からフォトグラメトリーを活用し3Dプリンターで植物のフィギュアを作ってみました。制作過程の紹介です!作りやすいアガベ(アガベ・王妃雷神白中斑)をモデルにしてみました。
今回試した植物フィギュアの作り方
フィギュアの作り方は色々とあると思います。主にはデータの作成と製造の2工程。データの製造は3Dモデルを作る必要がありますが、写真から3Dモデルを生成するフォトグラメトリー(photogrammetry)という手法で行いました。製造は積層式の家庭用3Dプリンタで行いました。
この記事では制作過程の紹介と工夫点です。ハードウェアやソフトウェアの細かい設定には言及してないです。
1.モデルの選定(作る植物フィギュア)
植物の造形は複雑で作りやすそうなモデルということで今回はアガベを選択しました。トゲがあるものや葉っぱなどは製造が難しいです。エケベリアやアガベなどが作りやすいと思います。
3Dプリンターはオーバーハングという製造上の制約があり可能な限り発生しないようにすることが綺麗に作るコツです。詰まった形の良い植物が結果的に積層型の3Dプリンターとの相性は良いです!
2.モデルとなる植物の撮影(動画撮影)
3Dモデルのデータをフォトグラメトリーで作るために植物の撮影。色々な方法を試しましたが結果としては一眼レフカメラで動画撮影(フルHD)をすることにしました。できれば4K動画を素材にしたかったですが自宅に4K動画が撮影できる機材はiPhoneとGoogle Pixel3しかなく試した結果一眼レフカメラで動画撮影するのが一番良い結果となりました。
可能な限り繊細な動画。できる限り絞る。そのため低ISOの絞り込み撮影で明るさが足りなくなるのでビデオライトがあったほうが良い。小物を撮影する場合ターンテーブルが良い。背景を誤認識しやすいので撮影ブースを使ったほうが良い。撮影した動画を写真に分解して利用する。今回の方法でほぼ100%認識された。
35mmレンズ、F11 ISO400 fullHD動画、10WのLEDライトを2灯、ターンテーブル、三脚、黒背景。LEDライトはもう2灯足してISO感度を下げ絞り込みたかった。撮影した動画は無加工で次の工程へ進みましたが明るさなどが気になる人は動画編集を先にしてもよいかもしれません。無駄な背景をカットできるとフォトグラメトリーの処理が楽になるとは思います。
ターンテーブルは1周1分。1分の動画を角度(真横〜上)を変えて5本。合計5分の動画を素材として用意しました。
3.フォトグラメトリーで3Dモデルを作る(3DF Zephyr)
近年、自らパソコンを低スペック化しているのと10年前からMac OSを利用しているのでなかなか選択肢が無い。動画再生用のMicrosoft Surface Proを使いました。Reality Capture(有料サブスク)を使ってみたかったのですがハードウェアの要求レベルが高すぎて(CUDA必須?)Steamで有料販売されている3DF Zephyrを利用。
3DF Zephyrには動画からの読み込み機能がある。動画を読み込み、動画から1sで1枚の画像を抜き出し。1分間の動画から60枚の画像、5つの動画から約300枚の画像を取り出しました。
標準設定で処理をかけましたが全ての画像を識別して3Dモデル作成までいけました。メッシュの穴埋めや不要なメッシュの削除は3DF Zephyrで行いました。テクスチャ付きのobjファイルをエクスポート。
細かい設定をしなくとも全てオートでやってくれますが、事前の素材が大事だと思う。設定を詰めるより高品質な素材をたくさん用意する(時間がかかる)低密度点群生成のタイミングで無用な場所を削り取っておく、後処理が楽なのと後処理が早い。
実寸のサイズ調整は3DF Zephyr上の「クイックメジャメント」で2点間の距離を計測しスケール変更をやっておいたほうが良い。ただblenderで取り込むと1kmの物体になっていた(笑
フォトグラメトリーで作ったアガベの3DモデルをSketchfabにアップしました。このデータから下部を切り取ったデータで製造しました。(データはDL可能です)
4.データのチェック(Meshmixer)
簡易なメッシュ編集フリーソフトのMeshmixerを使って3Dプリンタで印刷用のデータの整形をします。解析で穴が空いているところを念の為閉じておきます。(自分の3Dプリンタはあまり気にせず穴無視して印刷するみたいです?)
印刷に不要な部分のカットや穴埋めは3DF Zephyrのほうが良さそうです。一度テクスチャまで進めた上で低密度点群生成まで戻り加工です。今はMeshmixerを使っていないです。
何度か3Dプリンターで製造しているのですが初回はMeshmixerで下の方を削除して解析で穴を自動的に埋めました。stl形式で保存して3Dプリンタで印刷設定ソフトに渡します。またソフト間で座標の扱いが違うようで横向きになる場合などはここで回転させて直しておく。
5.3Dプリンタの印刷設定ソフト(スライサー)で印刷設定
3Dプリンタの標準付属スライサーで印刷設定。普段使っているフィラメント(素材)はある程度設定を詰めてあるので自分の標準設定を利用(普通の素材なら標準設定のままで良い、今回は炭素繊維が混ざっている少し特殊な素材使っています)下部を削ったのであまり難しい部分がないのでサポートは最小限の設定を追加(普段は植木鉢など3Dプリンタで作っているがサポートなしを意識しています)。3Dプリンタが受け取れるデータ形式に変換して3Dプリンタへ転送。Wi-Fiで転送できると便利です。そして印刷スタート。
6.3Dプリンターでフィギュアを印刷
3Dプリンタでの印刷時間は5時間30分程度。それなりに順調に進捗しているようだ。ビルドプレート(印刷台)以外にサポート材がないが綺麗に印刷できてる。詰まっているロゼットな植物だと底面を工夫したらサポートなしでも印刷できるかもしれない。
無事に印刷が終了しました。最後の方はノズル(素材が出てくるところ)の空中移動が多くやや糸引き(溶けたプラスチックは伸びます!)が発生してしまっています。指で簡単に綺麗にできます。
基本は手で、綺麗にしたいならデザインナイフと毛抜があると楽です。サポート材を綺麗に外していきます。この素材は特にですがヤスリがけなどをすると白っぽくなってしまう可能性が高いです。
水平に近い部分は流石に少し造形が崩れていましたが概ね綺麗にできた感じです。
7.植物フィギュアの完成!
細かいところの造形は難しいですが葉の真ん中のトゲなどは再現できていると思います!成長点あたりがもう少しリアリティが出るとアガベの良さが出て良いなとは思いました。細かく見ると葉と葉がくっついてしまったりしているところがありますが遠目に見たらちゃんと植物のフィギュアになったと思います。
工程としては撮影15分、データ加工1時間、印刷7時間と約9時間くらいで本物の植物から植物フィギュアの作成ができました。(リアル版コピーアンドペースト)
SSN鉢のS1-Mm75という鉢に合わせてみました。(もう少し浅い鉢のほうがバランスが良さそう?)
まとめ
技術進化はスゴイ。専門家でなくとも比較的簡単にオリジナルフィギュアが作れるようになりました。もっとも3Dプリンターで植物のフィギュアを作る場合、リアルの植物をそのまま印刷できる植物は限られます(デフォルメが必要でしょう)
もっとスキャンが容易になり3Dデータ化でき、3Dプリンタの性能があがると本当に写真を撮影するように3Dデータとして物体を残すことができるようになるのでしょう。今回はソフトウェアなどの使い方というよりは「リアルな植物からフォトグラメトリーを使って3Dデータ化し3Dプリンタで印刷する工程の紹介」でした。機会があれば詳しいやり方を書いてみたいと思います。
3DやCGをやると性能の高いパソコンが欲しくなりますね、自作パソコン熱が高まりますね。
追記
ユーフォルビア・オベサ(Euphorbia obesa)のフィギュアも作ってみました。こちらはターンテーブルは利用しましたがLEDライトや黒背景を利用せず、三脚と手持ちのスマートフォン動画で撮影して3Dモデルのデータをフォトグラメトリー(photogrammetry)で作り3Dプリンターで印刷してみました。