2020年からSSNとして3Dプリンタ製の植木鉢を製造、販売して3年目になりました。1年間色々試してみて見えてきたことやマーケットの変化などについて振り返りと考察です。SSN鉢の不具合まとめも載せています。
(参考)去年の振り返り
2022年もSSN鉢をたくさんの方にご購入いただきおかげで活動を継続できました。ご購入いただきました皆様、ありがとうございます。また自分自身も毎回少しでも新しい取り組みを意識してきました。2022年も新しく鉢を作る方が増えて徐々にジャンルが確立してきているように思えます。
2022年 SSN活動の振り返り
新しいモデルとしてロングポットタイプではないSSN12、SSN13。着生板、SSN15、SSN04SPなどの新モデルの追加。2021年年末よりハンズ渋谷店(旧:東急ハンズ渋谷店)での販売や、6月と10月のリアルイベントの販売など新しい販路で販売する機会を頂きました。リアルイベントでは普段ネット上でやり取りしてくださる方、オンラインストアで購入頂いている方と直接交流できるのがとても良かったです。
また3Dプリンタカテゴリはインターネット文化に近いところがあり一部のソフトウェアはオープンソースであったりします。海外中心ですがコミュニティもそれなりに活発です。少しでも気軽に3Dプリンタを使ってもらいたいということで「園芸ユーザーのための3Dプリンタ・3Dプリント講座」を公開しました。この記事を読んで始めましたというご連絡を頂いたりとても嬉しかったです。
2022年のチャレンジテーマだった多色・カラーモデル
2021年の振り返りの際に、「多色」にチャレンジしたいと宣言していましたがいくつか限定モデルとして多色モデルの販売。またいくつかのカラーモデルの販売を行いました。若干品質に不安があり長期利用してみないとわからないですが多色を使う事によって表現の幅がぐっと広がったと思います。
2022年に販売したモデルは、積層毎で素材を変える方法で色の切り替えタイミングで素材自体を手動で変更している非常にアナログな方法で行っています。多色印刷可能なプリンタやツールもあり今後チャレンジしてみたいです。
また3Dプリンタ特有として混色フィラメントという素材がありそちらも試してみました。なかなか使い所は難しいのですが3Dプリント特有のカラーリングになり面白い素材です。2022年に混色フィラメントが多く販売されました。それ以前は元の素材(ペレット)に着色したものもしくは単色の素材を3Dプリンタ自体で混合して印刷するという難しさがありましたが気軽にできるようになりました。
最近はマットカラーの混色フィラメントが販売されていますが、光沢の植木鉢は植物より目立ってしまい使いにくさがありましたが、混色するカラーの選択と表面の印刷加工によって、陶器鉢のような自然な焼色みたいな雰囲気にもできると感じました。使った素材は「Copper / Gold / Black」の混色光沢フィラメント。
単色のカラーでも色々試しているのですが、なかなか販売が難しい状況です。自分が納得できるのかというのとサイズ展開を考えると今は100に近いモデルがあるのですがそれにカラーをかけ合わせると莫大な製品数になってしまいます。自分で使う分にはよいのですが販売を考えるとうまい製造方法と販売方法を考えないといけませんが今後検討してゆきたいです。
SSN鉢の不具合などについて
2021年はprototype鉢として鉢自体にも刻印しており、2022年からは1シーズン以上経過して継続利用上大きな不具合がなかったためとっています。自分でも一番長く利用している鉢が2年以上経過してきていますが不具合や破損などが自分の手元でも購入者様の報告でも上がっているのでいくつか共有します。
多分熱による歪みです。単純に熱だけか、根張りによってキツキツになって熱が加わったことによって歪んだかは不明で後者に関しては植え替えしてみないとわかりません。素材がPLAで硬さがあり常温では歪むことはほぼないと思うので、熱が関連していることは確かだと思います。熱による変形はPLAという柔らかくなる温度が低い素材の場合はある程度容認する必要があるとおもいます。60度〜62度くらいは直射日光が当たると普通に起こる状態なので扱いに注意が必要です。
同じく熱による歪み。薄い板などは熱で柔らかくなり水を含んだ重たいビカクシダで歪みました。この着生板はワイヤーラックに吊るしながら下部は柱で支えていたので、完全な宙吊りだった場合は歪まなかったかもしれません。着生板に関わらず直射日光に長時間あたった3Dプリント鉢を少し力を入れて握ってみると柔らかくなっているのがわかると思います。基本的には冷めるまではいじらないほうが良いと思います。
着生板のような板状なものは厚さを増やすくらいしか解決策が見当たりません。
真夏ではない時期に窓際においていたら変形したという報告いただきました。この形に歪むのは全体に温度がかかったからかなとおもうのですが、空間が60度を超えていたということになりなにか熱以外の条件もあるかもしれません。
熱によるwall(壁)の剥がれ。ヒーターマットでの加温で利用とのことですが鉢内温度が60度を超えるとはあまり思えず、もしかするとinfill(中身の空洞部分)が加温によって結構暖かくなったのかもしれません。逆に中身の空洞のおかげで保温効果があるとも言えるかもしれませんが…。
少し専門的な話ですが、Outer wall(外壁)のみが剥がれているのでなかなか解決策が難しそうですが、テーパのかかっている鉢で1つ下の層との密着度がシリンダー型よりも低いことと、Top layerで閉じきれていないというのが要因だと思い、(設定で可能ならば)Top layerでの射出量を増やすか、Top layerの数を増やすかironing(アイロン:上面を綺麗に見せる加工をする、ざっくりとした説明だと熱したノズルで樹脂を溶かして平にする)で綺麗にするか。この報告を受けて意図的に行っていませんでしたがironing(アイロン)をそれ以降の鉢には設定いれることにしました。
120cm程度の高さから落下した際に割れました。積層の部分のみではないですが積層の部分を原因として割れたようです。ある程度の高さがある場合は用土の重みで鉢底が下になるように落下すると思われ当たりどころが悪かったのだと思います。通常のプラ鉢でも割れることがあれますがここまで綺麗にパックリは割れないと思います。PLAは素材として固めなので違う種類のPETGやASAという素材などの鉢であれば同条件で割れなかった可能性がありますが、個人的にはもう少し耐えてほしい。
3Dプリントの製造として強度を増す場合は、専門的な話ではありますが、wall count(壁の厚さ)を増やすが解決策だと思います。またlayer height(積層ピッチ)を細かくすることも解決策になるかもしれません。
この鉢は常に濡れている状態だったので極端な例かもしれませんが、カルキや薬剤跡が付着しやすい。細かい積層に水分などが溜まりやすい構造だからかもしれません。ワイヤーラックや棚においている分にはカルキ汚れなどは発生しにくいですが鉢皿利用や腰水にすると付着します。薬剤の跡はどのような条件でもつくと思います。傷がつくとはおもいますがたわしで磨くと綺麗になるそうです(ユーザー様からの情報)
2023年以降について
機材や素材など
近年非常に性能が良い3Dプリンタが出てきました。先に紹介した3Dプリント講座ではKingroon KP3Sという非常に素性の良く値段が安いプリンタで行いましたが、2022年はCrealityが日本でも購入できる色々なプリンタを販売してくれ、Ender-3 S1は今後誰にでもおすすめできるプリンタ(amazon.co.jpへリンク)だと思います。実物を見て触ってみましたがオートレベリングがついており静かで造形精度もよかったです。ビルドプレートの選択肢も増えました。ダイレクト型、オートレベリング、ビルドプレート交換などがスタンダードなスペックになりました。今後はメンテナンス性などの向上を期待したい。
またフィラメントも選択肢が自分が3Dプリンタを触り初めて3年ほど経過していますがかなり増えました。先にも出てきたような多色混合フィラメントであったり、カーボンファイバー配合されていたり、PLA以外にも最終製品として使えるような外観のものも増えてきました。また非常に品質が安定してハズレフィラメントが減ってきたようにも思えます。
製造の環境としては、基本的には機材も素材も国内メーカーがないため円安の影響を受けたり、だいぶ収まりましたがコロナで半導体が足りなく供給が追いつかなかったり(今もラズパイは手に入らない…)電気代の値上がりなどがあり製造原価が上がっています。またBtoCの直販のみであれば関係ないですがインボイス対応など、個人制作環境はやや厳しい状況担ってきていると思います。
2023年のSSNについて
2022年は「多色」でしたが引き続き様々なカラーによる表現の違いなどを検証しつつ、PLA以外の素材での製造や販売も一部試してみたいと思っています。あとは大型の植木鉢の製造や販売。また標準となる素材の見直し、機材の入れ替えなどを実施予定です(価格改定も合わせて…)
販路の拡大というよりは皆様との交流を目的としたイベント参加なども少し増やしていけたらと思います。いつか情報交換などを目的としたユーザー会みたいなものを開けたら面白いなと思っています。2023年もどうぞよろしくお願いいたします。