アガベ・チタノタとオテロイを分類論文から読む。Agave gilbeyi が優先されるのか

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アガベ・チタノタ周辺は、園芸では昔から名前が混線しやすい群です。
FO-076Sierra MixtecaRancho TamborAgave oteroiAgave titanota という名前が並びますが、それぞれが同じものなのか、別のものなのか は意外と整理しづらいまま流通しています。

今回読むのは、2025年の Acta Botánica Mexicana に掲載された Taxonomic studies in Agave franzosinii, A. dissimulans, A. gilbeyi and A. titanota という論文です。

結論を先に書くと、この論文は次の2点がかなり重要です。

  • Agave oteroi より Agave gilbeyi を優先する
  • Agave titanota のタイプを lectotypify して、titanota 側の輪郭を固定する

つまり、園芸的に言い換えると、チタノタ周辺の名前の基準線を引き直そうとしている論文 です。

まず結論

この論文から、園芸向けに先に抜き出すとこうなります。

  • Agave titanota と、近年 Agave oteroi と呼ばれてきた群は同じではない、という整理を強めている
  • そのうえで Agave oteroi に相当する群には、より古い名前の Agave gilbeyi を当てるべきだとしている
  • Agave titanota は Rancho Tambor のタイプ標本に基づいて、より大きく疎なロゼットの側へ固定される
  • 園芸で titanota と呼ばれている株のかなりの部分は、この論文の読みでは gilbeyi 側に寄る可能性がある

特に大きいのは3点目です。
この論文は Agave titanota の lectotype を指定して、学名の基準になる植物像をかなり具体的に置き直しています

この論文は何を見たのか

論文は、Tehuacán-Cuicatlán Valley の Agave franzosiniiA. dissimulansA. gilbeyiA. titanota を対象に、分類と命名の整理を行っています。

要旨で読める範囲でも、やっていることはかなり明確です。

  • 2014年から2024年にかけて野生個体群と人為管理群を調査
  • 標本を採集し、生物学的・生態学的・民族植物学的データを取得
  • 既存の検索表で同定を試みる
  • 合わない部分について、古い文献、標本、タイプ標本を再検討

単なる 新しい名前の提案 ではなく、現地調査、標本、古典文献、命名規約をまとめて再点検した論文 として読むのが自然です。

要旨で重要な一文

要旨の Key results では、次のポイントが示されています。

  • Agave gilbeyi is prioritized over A. oteroi
  • A. titanota is lectotypified

要旨では、この論文の主要成果として次の2点がかなりストレートに押し出されています。

Key results:

"A. gilbeyi is prioritized over A. oteroi, and A. titanota is lectotypified."

ここだけでも十分に重い内容です。

前者は、近年よく知られるようになった Agave oteroi より、1873年の Agave gilbeyi のほうが先取権を持つ、という判断です。
後者は、Agave titanota の基準となるタイプを固定し直して、どこまでを titanota と呼ぶのか をより明確にする処理です。

論文はなぜ Agave gilbeyi を優先したのか

本文の整理では、Agave gilbeyi は 1873年に図付きで記載された古い名前で、Agave oteroi は 2019年の名前です。

この論文は、A. oteroi として扱われてきた植物と、古い A. gilbeyi の図や記載が同じ種を指していると判断し、命名規約上は古い名前を優先すべき としています。

その流れは本文でも見えていて、証拠を示したうえで次のように書いています。

"Ante las evidencias mostradas..."

"se reconoce que Agave gilbeyi ... es el nombre más antiguo"

園芸的に雑に言い換えると、

  • oteroi という名前の植物が新しく現れた
  • でも実は、それに先に付いていた古い名前があった
  • なら規約上は古い名前 gilbeyi を使う

という流れです。

ここで重要なのは、この論文が oteroi は間違いだった と言っているのではなく、同じ分類群を指すなら priority のある古い名前へ戻すべき と整理している点です。

Agave titanota はどう固定されたのか

論文は Agave titanota について、Gentry が 1967年に Rancho Tambor で採集したタイプコレクションを再検討し、ARIZ 標本から lectotype を選んでいます。

この部分も、本文では段取りがはっきり書かれています。

"se asumen como el material original"

"A partir de estos ejemplares se escogió el lectotipo"

ここで園芸的に効くのは、titanota 側の植物像がかなり具体化されることです。

本文中の比較表と記載から読むと、Agave titanota はざっくり次のような像に寄っています。

  • より大きい
  • ロゼットは疎で、コンパクト一辺倒ではない
  • 葉は長く、幅に対して長さが出やすい
  • 葉色は glauco-whitish 側
  • 歯は gilbeyi より離れやすい
  • 生育帯は 1100-1800m と、gilbeyi より高め

一方で、Agave gilbeyi 側は、

  • よりコンパクトなロゼットを取りうる
  • 葉が短く幅広く見えやすい
  • 歯が大きく密で、近接しやすい
  • terminal spine 周辺に目立つ corneous plate を持つことがある
  • Río Hondo 周辺の 900-1000m 帯に集中する

このあたりは比較表の記述をそのまま追うと、

"rosetas compactas o laxas"

"ovadas, obovadas o lanceoladas"

"placa córnea presente"

という読みです。

という整理です。

つまり、この論文をそのまま受け取るなら、園芸で人気の強い 幅広・短葉・強鋸歯 側の多くは titanota ではなく gilbeyi 側で読む余地が大きい、ということになります。

園芸にどう使えるか

1. titanota ラベルを、そのまま分類名だと思い込まない

ここ数年の園芸流通では、Agave titanota という名前が非常に広い意味で使われてきました。

ですが、この論文を前提にすると、少なくとも次の整理は必要です。

  • 本当に Rancho Tambor 側の Agave titanota なのか
  • FO-076Sierra Mixteca 側で、実際は gilbeyi に近いのか
  • 交雑や選抜が入った園芸流通株なのか

つまり、ラベルが titanota でも、論文ベースでは別の読み筋がある ということです。

2. Agave oteroi という名前も、今後は固定ではない

この論文を読むと、Agave oteroi は園芸的には浸透していても、分類上の最終決着とはまだ言いにくくなります。

少なくともこの論文では、oteroi より gilbeyi が優先されています。

そのため、

  • 園芸ラベルでは oteroi
  • 論文では gilbeyi
  • データベースでは更新待ちや別解釈

というズレが当面残る可能性があります。

3. 産地や姿の読み方が少し変わる

この論文が面白いのは、単に名前を付け替えているだけではなく、地理と形態で群を切り分けている ところです。

園芸では見た目だけで名前が走りやすいですが、本来は

  • どの流域・どの谷系なのか
  • 標高帯がどこか
  • 葉の幅と長さの比がどうか
  • 歯の間隔がどうか
  • terminal spine の corneous plate が目立つか

といった点まで見たほうが、分類文脈に近づきます。

既存のサイト記事とどうつなげるか

このサイトでは、すでに アガベ・チタノタ(Agave titanota)| 種類と育て方アガベ・チタノタと新種アガベ・オテロイ(oteroi)についてアガベ・オテロイ オアハカ実生の栽培記録 を書いています。

今回の論文を踏まえると、既存記事は次のように読み直せます。

  • 2019年時点では oteroi で整理するのが自然だった
  • 2025年論文では、その oteroi 相当群に gilbeyi を優先している
  • 一方で、現行の外部データベースや流通ラベルがすべて追随しているわけではない

つまり、このサイト内でも 2019年の整理2025年の整理 を切り分けて併記する必要が出てきた、ということです。

これは古い記事が間違っていた、という話ではなく、分類が動いたことに合わせて読み筋を更新する、という意味です。

いま何を信じればよいのか

ここは少し慎重に読むべき点です。

この論文自体はかなり強く、現地調査、標本、古典文献、タイプの再検討まで入っています。
その意味で、読み物 ではなく 分類整理の一次ソース として重い論文です。

ただし、園芸実務では次のズレが残ります。

  • 流通名はすぐには切り替わらない
  • 既存の栽培記録やショップ名は oteroi のまま残る
  • データベース側の accepted name が即座に揃うとは限らない

なので、現時点の園芸的な運用としては、

  • 論文の整理は知っておく
  • ラベルはまだ過渡期だと理解する
  • titanota / oteroi / gilbeyi を一発で断定しすぎない

くらいが実際的です。

まとめ

この論文は、アガベ・チタノタ周辺を園芸名の感覚だけで見るのではなく、古典記載、タイプ、産地、形態に戻して整理し直す論文 です。

少なくともこの論文からは、

  • Agave oteroi より Agave gilbeyi を優先する
  • Agave titanota は Rancho Tambor 側で lectotypify される
  • 園芸で titanota と呼ばれてきた群の一部は、論文上は gilbeyi 側で読むべき可能性がある

という読みができます。

園芸での見え方に直すと、チタノタ周辺は「人気系統名」ではなく、産地とタイプに戻って見直す段階に入っている、ということです。

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参考

yurupo

yurupo

cf. yurupu. RE:YURUPUの編集長、植物記事の編集、ライティングを担当