LED育ちの株はなぜ外で変わるのか。光質順化の論文を読む

室内 LED で育てた株を外へ出すと、急に葉焼けしたり、思ったより姿が変わったりします。
このとき、つい「外が強すぎた」で終わらせがちですが、実際には その葉がどんな光の下で作られたか も効いています。
今回の論文は、HPS(高圧ナトリウムランプ)と LED(発光ダイオード)、さらに alternating HPS and LED(HPS と LED の交互照明)の 3 条件でトマトとバラを育て、
leaf area(葉面積)internode length(節間長)photosynthesis(光合成)chlorophyll fluorescence(クロロフィル蛍光)leaf spectral properties(葉の反射・透過特性)light penetration into the canopy(樹冠内への光の入り方)
などがどう変わるかを見ています。
結論を先に書くと、この論文は「LED のほうが常に優れる」とは言っていません。
むしろ、
- LED で育った葉は、
leaf area(葉面積)やinternode length(節間長)が小さめになりやすい - その一方で
specific photosynthetic capacity(葉あたりの光合成能力)は高い - HPS で育った葉は、
leaf temperature(葉温)がやや高く、光のcanopy(樹冠)への入り方も違う
という形で、光源が変わると植物の葉そのものの作りが変わる ことを示しています。
まず結論
園芸向けに先に抜き出すと、今回の論文はこう読めます。
LEDで育った葉は、少なくともこの試験ではコンパクト寄りになりやすい- ただし見た目が締まっていても、その葉は
LED light(LED 光)に順化した葉かもしれない HPS(高圧ナトリウムランプ)は葉温を少し上げ、canopy(樹冠)内への光の通り方も変えるspecific photosynthetic capacity(葉あたりの光合成能力)やFv/Fmは、LED で育った葉のほうが高い- つまり
どの光で育てたかは、後からの置き場移動にかなり効く
家庭園芸に引きつけるなら、LED で育った株をいきなり外へ出すときは、光量だけでなく「葉の作られ方が違う」前提で慣らしたほうがよい、という整理になります。
この論文は何を見たのか
Abstract では、試験条件をこう置いています。
"high pressure sodium (HPS) or LED light"
"one treatment with alternating HPS and LED light"
対象は tomato(トマト)と rose(バラ)です。
LED は、
"blue (B, peak emissions 402, 419, and 445 nm)"
"red/far red (R/FR, peaks in 663 and 737 nm)"
で構成されています。
つまりこの論文は、白色 LED と HPS の単純比較ではなく、青 + 赤 / 遠赤を含む LED 環境 と HPS を比べています。
見ている指標もかなり広いです。
plant growth parameters(生育指標)photosynthesis(光合成)chlorophyll fluorescence(クロロフィル蛍光)chlorophyll content(クロロフィル含量)leaf temperature(葉温)leaf spectral properties(葉の反射・透過特性)light penetration into the canopy(樹冠内への光の入り方)
ここが重要で、この論文は単に「どちらが大きく育つか」ではなく、葉の性質、光の受け方、光の通し方まで含めて順化を見る 論文です。
Highlights でまず拾うべきポイント
Highlights はかなり使いやすいです。
"Plant properties like leaf area and internode length were affected by light source."
"The spectral properties of the leaves were affected by light source."
"The specific photosynthesis capacity was higher for leaves developed in LED light."
"Chlorophyll fluorescence (Fv/Fm) was lower for leaves grown with HPS light."
ここから読めるのは、
- 光源が違うと
leaf area(葉面積)やinternode length(節間長)が変わる - 葉の
spectral properties(葉の反射や透過の特性)も変わる - LED で育った葉は
specific photosynthesis capacity(葉あたりの光合成能力)が高い - HPS で育った葉は
Fv/Fmが低い
ということです。
Fv/Fm は maximum quantum yield of PSII(光化学系 II の最大量子収率)です。
ざっくり言えば、葉がどれくらい無理なく光を使える状態かを見る指標で、一般には低いと光ストレスやダメージの気配を疑います。
結果としてどう見えるか
Abstract では、バラについてこう書かれています。
"stem elongation and leaf area were generally lower for plants grown under LED light"
一方で、
"fresh and dry weight was unaffected by the lamp type"
ともあります。
つまりバラでは、LED で育つと
stem elongation(茎の伸長)は小さめleaf area(葉面積)も小さめ- でも
fresh weight(生体重)とdry weight(乾物重)は大きく変わらない
という形です。
園芸的には、これはかなり面白いです。
見た目は締まっていても、必ずしも biomass(生物量)が大きく落ちているわけではない、ということだからです。
またトマトでは、
"plants grown in alternating LED and HPS lamps had lower fresh weight"
とあり、交互照明が単純に有利とは限らないことも示しています。
つまり、LED と HPS を混ぜれば中間でうまくいく と単純には言えません。
園芸にどう使えるか
1. LED育ちの葉 は、その光に順化した葉として扱う
この論文のいちばん大事な持ち帰りはここです。
LED で育った葉は、見た目だけでなく specific photosynthetic capacity(葉あたりの光合成能力)や leaf spectral properties(葉の反射・透過特性)まで違っています。
つまり家庭園芸でも、
- 室内 LED で数か月育てた株
- 冬の補光でしばらく維持した株
- 棚下の LED で締めていた株
は、その環境に合わせて作られた葉 を持っている可能性があります。
だから、春になって急に外へ出すと、
- 葉焼け
- 色の変化
- 一時的な停滞
- 既存葉の傷み
が出ても不思議ではありません。
2. 締まって見える と 外に強い は別
LED で internode length や leaf area が小さめになると、見た目はかなり締まって見えることがあります。
ただし、この論文の読み方としては、そこで安心しすぎないほうがよいです。
その葉は LED 光質に最適化された葉 かもしれず、強い自然光や別のスペクトルにそのまま最適とは限りません。
多肉や塊根でも、
- LED 下ではきれい
- 外へ出したら葉が傷んだ
- 新葉は平気だが旧葉が崩れた
ということは十分ありえます。
3. 葉温 も無視しない
この論文では、
"Leaf temperature was higher under HPS (0.9–1.3 °C)"
とあります。
差は大きすぎるわけではありませんが、光源が変わると 葉温も変わる という点はかなり重要です。
家庭園芸ではつい照度や PPFD だけを見がちですが、実際には
- 光質
- 光量
- 葉温
- 風
がセットで効きます。
特に室内 LED から屋外へ移すときは、光の強さだけでなく、葉面温度がどう上がるか も警戒したほうがよいです。
ここでライターとして少し気になるのは、HPS と LED の差が、どこまで光質そのものの差で、どこからが葉温や配置条件の差なのか という点です。
論文側は blue light と leaf temperature を key factor としていますが、園芸的には、
- HPS をもっと近づけたらどうなるのか
- 逆に LED 側で葉温を少し上げたら差は縮まるのか
- 光源距離や風の当たり方で結果はどれくらい動くのか
も気になります。
つまりこの論文は、LEDだからコンパクトになる と単純化するより、
light quality(光質)leaf temperature(葉温)- 光源距離
- 空気の動き
がセットで効いていそうだ、と読むほうが安全です。
通常栽培に引きつけるとどう読むか
この論文を、多肉や塊根の通常栽培にかなり雑に引きつけるなら、次のようなケース分けができます。
室内LEDで締めていた株を春に外へ出す- 見た目が締まっていても、既存葉は LED 順化葉の可能性がある
- 数日から数週間の慣らしを挟んだほうが安全
冬の補光株を春の自然光へ戻す- 光量アップだけでなく、光質と葉温の変化も同時に起きる
- 旧葉より新葉のほうが順応しやすいと考えて見る
LED下でコンパクトに育った株をそのまま評価するコンパクト = 外でも強いと決めない- その姿は LED 環境で作られた一時的な形かもしれない
つまり、通常栽培での読み替えとしては、光を変えるときは株を動かすのではなく、葉の世代を切り替えるつもりで見る くらいがちょうどよさそうです。
この論文からまだ言えないこと
この論文だけからは、次のことまでは言えません。
- 多肉植物や塊根植物で LED と自然光のどちらが優れるか
- HPS の代わりに白色 LED を使ったときも同じ反応が出るか
- どの程度の慣らし期間が最適か
- どの波長比なら外移行が楽になるか
あくまで今回は、tomato と rose を使った greenhouse crop の順化論文です。
ただし、葉が光環境に合わせて作り変わる という前提は、室内園芸でもかなり重要です。
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参考
Acclimatisation of greenhouse crops to differing light qualityScientia Horticulturae 204(2016) 1-7- DOI:
10.1016/j.scienta.2016.03.035 - ScienceDirect: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304423816301546
