UVはうどんこ病に効くのか。作用スペクトルの論文を読む

園芸で UV という言葉が出ると、つい
- UV は病害に効く
- UV-B がよい
- UV-C は強い
のように、ひとまとめで話しがちです。
でもこの論文は、そこをかなり丁寧に分けています。
結論を先に書くと、
250–280 nmはかなり有効- 主に
UV-C(200–280 nm)帯
- 主に
290–310 nmは移行帯で、照射時間に依存するUV-B(280–315 nm)帯の一部
310 nm以上は、この試験では効かないUV-B後半からUV-A(315–400 nm)帯
という話です。
つまり、UV は効く / 効かないではなく、どの波長帯かを分けて考えないと雑すぎる ということです。
まず結論
園芸向けに先に抜き出すと、今回の論文はこう読めます。
Oidium neolycopersiciの infection process(感染過程)は UV 波長によって効き方がかなり違う250–280 nmは、少なくともこの試験では conidial germination(分生子発芽)から infection(感染)まで強く抑える290–310 nmは transition range(移行帯)で、照射時間しだい310–400 nmは non-effective range(非有効帯)として読まれている- つまり、
UVと一括りにして防除を語るのではなく、有効帯域を切って考える 必要がある
家庭園芸に引きつけるなら、病害抑制で UV を考えるときは、UV-A / UV-B / UV-C をまとめて同じものとして扱わない ことがまず重要です。
この論文の帯域を一般的な区分に重ねると、
250–280 nm- ほぼ
UV-C
- ほぼ
290–310 nmUV-Bの中でも効き方が揺れる帯域
310–400 nmUV-Bの後半からUV-A
と見ると読みやすいです。
この論文は何を見たのか
Abstract と Discussion の芯はかなり明快です。
"UV range of 250–280 nm effectively reduces infection process of O. neolycopersici."
"This study showed that UV has three different ranges in terms of its efficacy against O. neolycopersici: an effective range between 250 and 280 nm, a transition range from 290 to 310 nm, and a non-effective range from 310 to 400 nm."
この論文は、250–400 nm の範囲で波長を切りながら、Oidium neolycopersici の
conidial germination(分生子発芽)hyphal expansion(菌糸伸長)penetration attempt(侵入試行)infection(感染)
を追っています。
ここが良くて、単に「病斑が減った」で終わっていません。
感染過程のどこが止まるのかまで見ています。
要旨で拾うべきポイント
まず、いちばん使いやすい結論はここです。
"Radiation ≤ 280 nm strongly reduced conidial germination, hyphal expansion, penetration attempt and infection of O. neolycopersici."
つまり 280 nm 以下では、
- 発芽
- 菌糸伸長
- 侵入試行
- 感染
の全段階でかなり強く抑えています。
一方で、290–310 nm は曖昧です。
"From 290 to 310 nm the effect depended on duration of exposure, while there was no effect ≥ 310 nm."
ここが大事で、
290–310 nmは照射時間しだい310 nm以上は effect がない
という整理です。
つまり、同じ UV でも 313 nm 近辺と 270 nm 近辺を同じ調子で語れません。
さらに面白いのが、作用機序側の話です。
"No indication of reactive oxygen species involvement in UV mediated inhibition"
"No cytoplasmic mitochondrial streaming in conidia exposed to effective UV range"
著者たちは、この抑制が単純な reactive oxygen species(活性酸素)だけでは説明しにくく、むしろ direct effect(直接作用)や cell cycle arrest(細胞周期停止)に近い可能性を示しています。
園芸にどう読むか
1. UV を一括りにしない
これがいちばん重要です。
園芸では、
- UV に当てると病害が減る
という語り方がされがちですが、この論文を読むとそれでは粗すぎます。
少なくとも Oidium neolycopersici では、
250–280 nm- effective
290–310 nm- duration-dependent
310–400 nm- non-effective
という差があります。
つまり UV 対策を考えるなら、波長帯まで見ないと意味が薄い ということです。
2. 効く波長 と 実際に使いやすい波長 は別
ここは園芸への読み替えで大事です。
この論文は pathogen(病原菌)側の action spectrum(作用スペクトル)を見たもので、
- 人に安全か
- 栽培環境で扱いやすいか
- 植物への副作用が少ないか
までは答えていません。
つまり、
いちばん効く帯域と現場で使いやすい帯域
は別です。
なのでこの記事の価値は、具体機材の推奨ではなく、有効帯域の物差しを先に作ること にあります。
3. 313 nm ならUVだから効くはず と言いにくくなる
園芸では UV-B 周辺の数字が単独で語られることがあります。
でもこの論文からは、少なくとも 310 nm 以上は non-effective range と読まれています。
もちろん対象病原菌が違えば変わる可能性はあります。
ただ、UV というラベルだけで期待しすぎるのは危ない、というブレーキにはなります。
通常栽培に引きつけるとどう読むか
この論文を園芸全般に寄せて読むなら、次のようなケース分けができます。
温室や棚で病害を減らしたい場面- UV を使う発想自体はありうる
- ただし波長を雑にまとめると判断を誤りやすい
UV ライトやUV機能付き機材を見る場面- どの帯域なのかをまず見たくなる
UVとしか書かれていない情報はかなり荒い
植物への副作用も気になる場面- 病原菌に効く帯域が、そのまま使いやすいとは限らない
- 使うなら病害効果と植物ダメージを分けて見る必要がある
つまり、病害抑制に UV を使う発想自体は面白いが、波長帯と現場適性を分けて考えないと危ない と整理するのがよさそうです。
この論文からまだ言えないこと
この論文だけからは、次のことまでは言えません。
- 多肉植物や塊根植物のうどんこ病でも同じ action spectrum になるか
- 家庭園芸で安全に使える具体機材は何か
- どの照射頻度、照射距離が最適か
- 植物体側のダメージとどう両立するか
あくまで今回は、tomato powdery mildew を対象に 病原菌側の作用スペクトル を見た 1 本です。
ただし、UV を一括りで語らず、有効帯域を切って考える という視点は、園芸全般でかなり強いと思います。
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参考
Determination of UV action spectra affecting the infection process of Oidium neolycopersici, the cause of tomato powdery mildewJournal of Photochemistry and Photobiology B: Biology 156(2016) 41-49- DOI:
10.1016/j.jphotobiol.2016.01.009 - ScienceDirect: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1011134415300026