ハダニはどの波長を見ているのか。視覚と定位反応の論文を読む

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ハダニは、室内でも屋外でも本当に厄介です。
乾燥気味の環境で増えやすく、気づいたときには葉裏に広がっていることが多いです。

園芸では

  • 葉水が効く
  • 乾燥させると出やすい
  • UV や室内環境が関係しそう

という感覚はありますが、その前に気になるのは そもそもハダニはどの波長を見ているのか です。

今回の論文は、Tetranychus urticae の spectral sensitivity(分光感度)と orientation response(定位反応)を、350–700 mμ の範囲で見た古典論文です。

結論を先に書くと、

  • ナミハダニは 350–600 mμ に反応する
  • 600 mμ より長い波長には insensitive(不感)
  • 375 mμ 付近に大きな positive response(正の反応)のピーク
  • 525 mμ に小さめのピーク

という結果です。

今の単位で読むと、これはだいたい

  • near UV(近紫外)
  • green(緑)

に山がある、という話です。
逆に red(赤)側にはあまり反応しない、と読めます。

まず結論

園芸向けに先に抜き出すと、今回の論文はこう読めます。

  • ナミハダニは near UV(近紫外)にかなり強く反応する
  • green(緑)付近にも 2 つめの感度ピークがある
  • 600 nm より長い orange-red(橙赤)側にはほぼ不感
  • つまりハダニを考えるとき、UVgreen を無視しにくい
  • ただし、感度ピーク = そのまま最も集まる色 とまでは言えない

家庭園芸に引きつけるなら、

  • 室内 LED やフィルムで UV が減ることには意味がありそう
  • red を増やしたからハダニが減る、とはまだ言えない
  • 色だけでなく、乾燥、風、葉裏環境と一緒に見る必要がある

くらいが安全な読みです。

この論文は何を見たのか

Abstract の芯はかなり明快です。

"The orientation and locomotory response"

"to light from 350 to 700 mμ"

つまりこの論文は、ナミハダニの

  • orientation response(定位反応)
  • locomotory response(移動反応)

を、350–700 mμ の光で調べています。

ここでいう spectral sensitivity(分光感度)は、どの波長にどれくらい反応するかという話です。
orientation response は、光に対してどちらへ向かうか、どの程度反応するかを見る行動側の指標です。

つまりこの論文は、アザミウマ論文のような electroretinogram(網膜電位計測)ではなく、行動実験ベースで感度と定位を見ている のが特徴です。

Abstract でまず拾うべきポイント

要点はここです。

"the mite responds to wave lengths between 350 and 600 mμ"

"To wave lengths longer than 600 mμ the mite is insensitive"

"a high peak of positive response in the near u.v. region at 375 mμ and a smaller peak at 525 mμ"

これで、ほぼ記事の芯が出ています。

つまり、

  • 350–600 mμ には反応する
  • 600 mμ より長い波長には反応しにくい
  • 375 mμ に強いピーク
  • 525 mμ に小さめのピーク

です。

今の感覚で言い換えると、

  • 375 nm 付近 = near UV(近紫外)
  • 525 nm 付近 = green(緑)

です。

ここがかなり面白いです。
ハダニを、なんとなく「乾燥で出る小さい虫」として見るのではなく、UV と green に反応する視覚を持つ存在 として見直せます。

ここは少し慎重に読みたい

この論文はかなり古いですが、だからこそシンプルです。

一方で、ここからそのまま

  • UV に一番寄る
  • green に一番集まる

とまでは言わないほうがよいです。

理由は、今回の論文が見ているのは orientation and locomotory response であって、現代的な温室環境での

  • trap への集まり方
  • 植物上での分布
  • LED 棚での密度差

をそのまま測っているわけではないからです。

なので安全な読みは、

  • ハダニは UVgreen をかなり見ていそう
  • red 側には鈍そう
  • ただし、実害や密度への翻訳には追加の論文が必要

までです。

園芸にどう使えるか

1. UV を切る環境は気になる

ハダニの大きいピークが near UV というのはかなり示唆的です。

園芸的には、

  • 室内栽培
  • UV を切るカバー
  • ガラスやフィルム越しの光

では、ハダニが普段受ける光環境がかなり変わっている可能性があります。

この論文だけで「UV を切るとハダニが増える」とまでは言えません。
ただ、少なくとも ハダニにとって UV は無関係ではない と言えます。

2. green 付近の反応は葉とつながる

もうひとつのピークが 525 nm 付近というのも重要です。

これは green に近く、植物の葉の見え方や反射ともつながりやすい帯域です。

つまりハダニは、

  • 葉そのもの
  • 葉の反射
  • 周辺環境の緑っぽい反射

にも視覚的に反応している可能性があります。

3. red だけでは説明できない

600 nm より長い波長に insensitive という結果は、かなりわかりやすいです。

少なくともこの論文の範囲では、ハダニを考えるときに

  • red を足す
  • red が多いからどうこう

だけで議論するのは危ういです。

もちろん、これは感度の話なので、

  • red 光で植物側がどう変わるか
  • その結果ハダニ密度がどうなるか

は別です。

でも、ハダニの目そのものは赤側に強くはなさそう という整理はかなり使えます。

通常栽培に引きつけるとどう読むか

この論文を家庭園芸にかなり雑に引きつけるなら、次のような読み方ができます。

  • 室内LED棚はハダニが出やすい気がする
    • 乾燥や風だけでなく、UV を失った光環境の違いも少し気になる
  • 葉水やシャワーが効く
    • これは視覚ではなく、物理除去と湿度側の話
    • ただし「視覚」「乾燥」「葉裏環境」は分けて考えたい
  • 赤っぽい光ならハダニが減るのでは
    • 感度論文だけではそこまで言えない
    • 少なくとも red に強く反応する虫ではなさそう、まで

つまり、ハダニ対策としては

  • spectral sensitivity(分光感度)
  • 乾燥
  • 葉裏の環境
  • 物理除去

を一緒に見たほうがよいです。

この論文からまだ言えないこと

この論文だけからは、次のことまでは言えません。

  • UV を減らすと実際にハダニ密度が上がるか
  • 紫 LED や緑 LED で発生がどう変わるか
  • ナミハダニ以外のハダニでも同じか
  • アザミウマやコナジラミと同じように比較できるか

ただし、ハダニを 乾燥で出る だけでなく、UV と green を見る存在 として捉え直す入口としてはかなり面白いです。

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参考

yurupo

yurupo

cf. yurupu. RE:YURUPUの編集長、植物記事の編集、ライティングを担当