育苗を適当にしない理由。レタス論文から読む光条件の持ち越し効果

育苗は、つい「とりあえず出ればいい」「本番の棚に移したら整う」と考えがちです。
でもこの論文は、苗のときの光条件が収穫時の yield(収量)や quality(品質)まで持ち越される と示しています。
今回の試験では、Lactuca sativa cv. Frill ice の seedlings(苗)を 20 日間、
PPFD(光合成有効光量子束密度) 200 / 250μmol m⁻² s⁻¹photoperiod(点灯時間) 14 / 16h d⁻¹R:B ratio(赤青比) 1.2 / 2.2fluorescent lamps(蛍光灯, R:B 1.8)対照
で育て、その後は 同じ光環境 に移してさらに 20 日育て、収穫時の差を見ています。
結論を先に書くと、この論文は
- 育苗時の
DLI(daily light integral, 日積算光量)が高ければ高いほどよい - 強い光で小さく締めれば正解
とは言っていません。
むしろ、
seedling stageの光条件は、mature lettuce yield(収穫時の収量)に残る- 低すぎても高すぎてもだめで、適量がある
- 少なくともこの試験では
PPFD 200×16 h×R:B 2.2がかなりよかった
という形で、育苗を雑にすると本番で取り返しにくい と読む論文です。
まず結論
園芸向けに先に抜き出すと、今回の論文はこう読めます。
seedling stage(育苗段階)の光条件は、収穫時の出来まで持ち越されるPPFDやphotoperiodは多ければよいではなく、適量がある- 少なくともこの試験では
DLI 11.5 mol m⁻² d⁻¹付近がちょうどよい broad spectrum LED(比較的広いスペクトルの LED)でR:B ratio 2.2は育苗に向いていた- つまり、苗の時点の照明は「仮置き」ではなく、本番の仕上がりを作る工程として見たほうがよい
家庭園芸に引きつけるなら、実生棚や育苗棚の光を適当にすると、後で大きい棚へ移しても完全には取り返せない可能性がある という話です。
この論文は何を見たのか
Highlights はかなり使いやすいです。
"Lighting environment at seedling stage influenced mature lettuce yield."
"Nitrate content of lettuce was not affected by light treatment at seedling stage."
"Broad spectrum LED with red to blue ratio of 2.2 was suitable for seedling growth."
"Daily light integral of 11.5 mol m−2 d−1 was appropriate for seedling growth."
ここから読めるのは、
- 育苗時の lighting environment(光環境)は、成熟時の yield に効く
nitrate content(硝酸塩濃度)は、少なくともこの試験では大きく動いていないR:B 2.2の broad spectrum LED がよかったDLI 11.5が適量だった
ということです。
Abstract では試験条件も明快です。
"two levels of PPFD (200 and 250 μmol m−2 s−1)"
"two photoperiods (14 and 16 h d−1)"
"LEDs with red to blue ratio (R:B ratio) of 1.2 and 2.2, and fluorescent lamps with R:B ratio of 1.8 as control"
つまりこの論文は、単に LED と蛍光灯を比べたのではなく、
- 光量
- 点灯時間
- 赤青比
をまとめて見ています。
しかも重要なのはここです。
"After the 20-day treatment during seedling stage, lettuce seedlings were transplanted to a homogeneous lighting environment for another 20 days before harvest."
後半は同じ環境に揃えているので、育苗時の差がその後に残るか を比較的きれいに見られる設計です。
要旨で拾うべきポイント
まず、苗の時点では DLI が形にかなり効いています。
"leaf length and ratio of leaf length to leaf width at 20 days after sowing decreased in a logarithmic way with increasing daily light integral"
つまり DLI が上がるほど、
leaf length(葉長)leaf length / leaf width(葉長葉幅比)
が下がり、苗姿はコンパクト寄りになります。
ただし、この論文の面白いところは そこで終わらない ことです。
"Leaf and root fresh weights of harvested lettuces were higher in the seedlings grown under PPFD at 200 μmol m−2 s−1 with a 16 h d−1 photoperiod"
ここがかなり重要で、収穫時の leaf and root fresh weights(地上部と根の生体重)は、
PPFD 200photoperiod 16 h
で育苗した苗のほうが高かったと読めます。
つまり、
PPFD 250で強く当てる- だからよい
とは単純には言えません。
さらに要旨の結論でも、
"PPFD of 200 μmol m−2 s−1 with a photoperiod of 16 h d−1 provided by LEDs with R:B ratio of 2.2 was suitable"
と整理されています。
園芸にどう読むか
1. 育苗で締める と 本番で伸びる は別
育苗では、つい
- 徒長しない
- 葉が締まる
- コンパクトで見た目がよい
を優先しがちです。
もちろんそれは重要ですが、この論文を読むと 苗姿がよいことと、収穫時まで含めた出来がよいことは別 です。
つまり、
- 苗の時点で小さく締まる
- でも後半の伸びや収量で不利
という可能性があります。
家庭園芸でも、
- 実生をとにかく締めたい
- 苗を詰めて作りたい
という気持ちはありますが、育苗段階の光を強くしすぎると、その後の伸びまで削ることがあるかもしれません。
2. DLI は高ければよいわけではない
この論文でかなり使いやすいのはここです。
PPFD と photoperiod を掛け合わせた DLI(日積算光量)には、適量があると読めます。
少なくともこの試験では、
- 低すぎても足りない
- 高すぎても収穫時に有利とは限らない
という形です。
これは LED 棚でもかなり重要です。
つい
- 明るいほどよい
- 長く当てるほどよい
と考えがちですが、実際には seedling stage では 次の段階に残るちょうどよいライン がありそうです。
3. broad spectrum の実務感は強い
この論文では、broad spectrum LED with R:B ratio 2.2 が推されています。
ここが実務的です。
単色赤や単色青ではなく、
- 比較的広いスペクトル
- 赤がやや多い
という、いまの植物育成用 LED に近い発想で組まれています。
なので、この論文は
- 赤青 LED 神話
- 強い単色光
に寄せるより、無理のない broad spectrum で育苗条件を詰める ほうが現実的だと読めます。
4. 通常栽培に引きつけるとどう読むか
この論文を、多肉や塊根の育苗へかなり雑に引きつけるなら、次のように読めます。
播種直後の棚は仮設だから適当でよい- それは危ない
- 苗の時点の光条件は、その後の伸び方まで残るかもしれない
徒長だけを見て強光に振る- 姿は締まっても、後の伸びや根張りまで見ないと判断しにくい
長時間点灯で押し切る- 点灯時間は有効だが、PPFD との組み合わせで適量がある
- 時間だけ伸ばせばよいわけではない
つまり、通常栽培への持ち帰りは 育苗棚は本番前の仮置きではなく、後の植物体を決める前半戦 ということです。
この論文からまだ言えないこと
この論文だけからは、次のことまでは言えません。
- 多肉植物や塊根植物でも同じ
DLIが最適か - 実生の種類ごとに、同じ赤青比がよいか
- LED 棚で何 cm の距離が最適か
- 収穫作物ではない植物で、どこまで同じ carryover effect(持ち越し効果)があるか
あくまで今回は hydroponic lettuce の論文です。
ただし、育苗を適当にしない理由 を論文ベースで説明するにはかなり強い 1 本だと思います。
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参考
Evaluation of growth and quality of hydroponic lettuce at harvest as affected by the light intensity, photoperiod and light quality at seedling stageScientia Horticulturae 248(2019) 138-144- DOI:
10.1016/j.scienta.2019.01.002 - ScienceDirect: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304423819300020