パキポディウムを持続的に楽しむには。遺伝資源と園芸価値の論文を読む

パキポディウムは、見れば見るほど野生の姿に惹かれる植物です。
太い塊根、暴れた枝、乾いた土地で作られた肌。そうした wild forms(野生的な姿)こそ価値だと感じる人は多いと思います。
ただ、その魅力が強いからこそ、遠い国で園芸を楽しむ側には責任も出てきます。
今回の論文は、まさにそこを正面から扱っています。
結論を先に書くと、この論文は
wild formsの魅力は強い- だからこそ over picking(過剰採取)が起こる
- その代わりに、増殖、生産、育種、知識共有を強くする必要がある
と整理しています。
つまり、パキポディウムを楽しむこと自体が悪いのではなく、どんな流通と生産を支持するかが問われている という話です。
まず結論
園芸向けに先に抜き出すと、今回の論文はこう読めます。
Pachypodiumの主な価値は、自然条件で作られるtasteful and quaint appearance(味わい深く独特な姿)にある- その価値が高いからこそ、野生個体への採取圧が生まれやすい
- 持続的に楽しむには、
stable production(安定生産)とculture techniques(栽培技術)が必要 - さらに
valuable cultivars(価値ある系統)の育種とpreservation of genetic resources(遺伝資源保全)も必要 - 園芸側にとって重要なのは、
wild formsの価値を知ったうえで、それを野生採取に依存しない形で支えること
家庭園芸に引きつけるなら、日本のような遠い場所でパキポディウムを楽しむなら、現地負担を減らす流通と増殖のほうを支持する責務がある と読む記事です。
この論文は何を見ているのか
Abstract はかなり率直です。
"Due to over picking of plants in their natural habitats, some Pachypodium species are endangered."
まずここで、野生地での over picking(過剰採取)が明確に問題として置かれています。
次に、著者はパキポディウムの価値を他の園芸分野と比較して考えます。
"horticultural values of Pachypodium are analyzed through a comparison with bonsai, orchid and cacti plants"
ここが面白いです。
この論文は単に「保全が大事です」と言うだけではなく、なぜパキポディウムがここまで人を惹きつけるのか を、盆栽、ラン、サボテンと並べて考えています。
この文脈を踏まえたうえで、著者は価値の芯を次のように置きます。
"The main value of Pachypodium is a tasteful and quaint appearance"
"which can be produced under natural conditions"
つまりこの論文は、パキポディウムを
- 盆栽のように
樹形や古さの味わいを見る植物 - ランのように
珍しさや選抜価値を見る植物 - サボテンのように
乾燥地植物としての造形美を見る植物
と比較しつつ、その中心価値を 自然条件で作られた味わい深く風変わりな姿 に置いている、と読めます。
なので、人工的に整いすぎた均一さよりも、野生条件が作る個体差や風合いそのものが魅力だ、という整理です。
要旨で拾うべきポイント
この論文のポイントは、保全を moral(道徳)だけで終わらせず、園芸技術の課題に直しているところです。
"Stable production and culture techniques to grow quickly without losing the allure of Pachypodium are important horticultural tasks."
ここはかなり重要です。
単に「増やせばよい」ではなく、
- 安定して生産できること
- 早く育てること
- それでも
allure(魅力)を失わないこと
の 3 つを同時に課題として見ています。
つまり、
- 大量に作れても全部似た姿になる
- 早く育つが味がない
では、パキポディウムの価値に届かないということです。
さらに次です。
"The establishment of valuable cultivars through both preservation of genetic resources and intensive breeding programs are also required."
ここから、
genetic resources(遺伝資源)の保全breeding programs(育種プログラム)
の両方が必要だと読めます。
そして最後がかなり強いです。
"Production of sufficient number of highly valued plants would prevent wild plant picking in their habitat"
"Sharing knowledge and collaboration works are keys for the sustainable use of these genetic resources."
つまり著者は、
- 高く評価される plants を十分に生産できれば、野生採取圧を減らせる
- そのためには knowledge sharing(知識共有)と collaboration(協働)が鍵
と結んでいます。
園芸にどう読むか
1. wild forms が好きだからこそ、流通の質を問う
パキポディウム好きほど、wild forms の魅力に引かれます。
そこは隠す必要がありませんし、むしろ自然だと思います。
ただ、この論文を読むと、
wild formが魅力的- だから現地球が欲しい
で止まるのではなく、
- その価値をどう持続的に残すか
まで考えたくなります。
園芸側の行動に直すなら、
- 野生採取依存の流通を無条件に持ち上げない
- 実生や増殖株の価値を下げすぎない
- 由来や増殖背景が見える流通を支持する
のような話になります。
2. 早く育てる と 魅力を残す を両立させる必要がある
この論文の面白さはここです。
パキポディウムでは、
- 早く大きくしたい
- でも wild っぽい味は残したい
という、少し矛盾した願いが常にあります。
著者もそこを前提にしていて、単なる量産ではなく、魅力を失わない生産技術 を課題にしています。
これは園芸でもかなり重要です。
- 早く太らせる
- 温室で一気に仕上げる
- 肥培でサイズを出す
はできるかもしれません。
ただ、それで allure が消えるなら、パキポディウムの価値の中心から外れる可能性もあります。
3. 保全 と 育種 は対立しない
保全というと、つい
- 野生を守る
- 人は手を出さない
のように聞こえます。
でもこの論文は、かなり園芸寄りです。
つまり、
genetic resourcesを保全する- 同時に
breeding programsを進める
を両立させようとしています。
これはかなり現実的です。
- 野生の価値を守る
- 園芸の魅力も育てる
- そのために増殖と系統作りを進める
という方向なので、ただの禁止論ではありません。
4. 日本で楽しむ側の責務として読む
ここは個人的にもかなり大きいポイントです。
日本のような遠い国でパキポディウムを楽しむこと自体、何かしらの環境負荷があります。
だからこそ、せめてその中で
- 現地負担を増やさない流通を選ぶ
- 野生採取を当然視しない
- 増殖や育種の価値を知る
ことは、楽しむ側の責務に近いと思います。
この論文は、そこを moral ではなく、園芸の持続可能性の課題 として置いているのがよいです。
通常栽培に引きつけるとどう読むか
この論文は栽培条件の実験ではありませんが、通常栽培に引きつけるなら次のように読めます。
現地球がいちばん価値がある- その価値観を一度分解したほうがよい
- 何に惹かれているのかを、自分で言葉にしたほうがよい
実生や増殖株は代用品- それだけで片付けない
- 持続的な楽しみ方の中核にあるのは、むしろこちらかもしれない
流通の背景は気にしない- パキポディウムでは、そこがかなり重要
- 由来、増殖方法、採取圧を切り離さず見るほうが自然
つまり、通常栽培への持ち帰りは 育て方だけでなく、どんな植物をどんな経路で迎えるかも園芸の一部 ということです。
この論文からまだ言えないこと
この論文だけからは、次のことまでは言えません。
- どの種がどの程度 endangered なのかの細かい差
- 家庭園芸で最も持続的な増殖法が何か
- 実生とクローン繁殖のどちらが園芸的に優れるか
- 現在の流通がどこまで改善しているか
今回はあくまで Acta Horticulturae の提言寄り論文です。
ただし、パキポディウムをどう楽しむかを、現地負担や遺伝資源保全まで含めて考える入口 としてはかなり強いと思います。
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参考
Challenge for the sustainable use of Pachypodium genetic resourcesActa Horticulturae 1267(2020) 33-38- DOI:
10.17660/ActaHortic.2020.1267.6 - Acta Horticulturae: https://www.actahort.org/books/1267/1267_6.htm


