室内LED栽培は、ただ明るくすればよいのか。光量・日長・光質・順化を論文ベースで整理する

室内 LED 栽培が面白いのは、外の光をそのまま再現できるからではありません。
むしろ、どのダイヤルを触ると、株の反応がどの方向へ動くかを切り分けやすい ところが面白いです。
ただ、ここで話を雑にするとすぐに崩れます。
明るい LED に替える の一言に、
PPFD(その瞬間の光の強さ)DLI(1日トータルの光量)photoperiod(点灯時間)spectrum(光の中身)- 葉がその光にどう順化しているか
が全部混ざるからです。
このページの結論を先に書くと、室内 LED 栽培は ただ明るくすればよい では整理しにくいです。
論文ベースで見ると、LED 栽培の面白さは 明るさを上げること そのものではなく、総量、時間、光質、葉の作られ方を分けて見られること にあります。
まず結論
DLIは便利だが、高ければ高いほどよいとは読みにくい- 同じ
DLIでも、強く短くと弱く長くが同じ反応になるとは限らない spectrumを変えると、単に育つ量ではなく姿や反応の質が変わる- LED で育った葉は、その光に合わせて作られた葉かもしれない
- 育苗段階の光条件は、その場かぎりで終わらず後半まで残ることがある
つまり室内 LED 栽培で面白いのは、どのダイヤルが何を動かしているかを見ながら調整できること です。
逆に 明るくしたのにうまくいかない と感じるときは、たいてい 明るさ 以外の話が混ざっています。
ただ明るくするだけでは足りない理由
いちばん入口に置きやすいのは DLI(daily light integral, 日積算光量)です。
LED 栽培では PPFD の数字や照度計の値に意識が寄りやすいですが、植物から見れば その日1日でどれだけ受けたか もかなり重要です。
DLIとは何か。日積算光量は高ければ高いほどよいのか と
育苗を適当にしない理由。レタス論文から読む光条件の持ち越し効果
の両方で土台になっている 2019 年の Scientia Horticulturae 論文では、Highlights に
"Daily light integral of 11.5 mol m−2 d−1 was appropriate for seedling growth."
とあります。
ここで大事なのは appropriate(適量)であって、maximum(最大がよい)ではないことです。
少なくともこの試験では、DLI は多ければ多いほどよいとは整理されていません。
この読み方は、室内 LED 栽培をかなり楽にします。
つまり最初から 最強照明を当てる 発想に行かず、
- 今の棚はそもそも
1日量が足りているのか - 足りないなら
PPFDを上げるのか - それとも
photoperiodを伸ばすのか
を分けて考えられるからです。
同じ総量でも、強さと時間は同じではない
DLI が便利でも、そこで全部を畳まないほうが安全です。
同じ DLI に見えても、植物は その瞬間どれくらい強い光だったか と どれくらい長く当たったか を分けて受けています。
育苗を適当にしない理由。レタス論文から読む光条件の持ち越し効果
では、要旨に
"Leaf and root fresh weights of harvested lettuces were higher in the seedlings grown under PPFD at 200 μmol m−2 s−1 with a 16 h d−1 photoperiod"
とあります。
ここから少なくとも言えるのは、PPFD 250 にすれば自動的に有利とは読めないことです。
PPFD と photoperiod の組み合わせで結果が動いていて、総量の数字だけでは反応の質を言い切れない ということです。
LED 栽培でこれが面白いのは、光を強くする 以外の調整余地があるからです。
距離を詰める、台数を増やす、時間を延ばす、配置を組み替える。
それぞれ見ているダイヤルが違うので、何を狙っていじるかで設計が変わります。
光の色を変えると、動くものも変わる
LED が面白いもう1つの理由は、spectrum をある程度触れることです。
ただしここも 何色が最強か で見ると雑になります。
Aloe arborescens のLED論文を読む。赤色と青色で何が変わるのか
で扱った 2017 年の Acta Horticulturae 論文では、要旨から短く拾うと
"display a greater number of shoots"
"tend to be taller"
"highest values of FRAP and total phenols"
という並びになります。
この試験は in vitro culture(培養下)なので、鉢植えのアロエへそのまま移す話ではありません。
ただ、LED の色を変えたときに
number of shoots(増え方)height(高さ)FRAPやtotal phenols(反応の質)
が別々に動く、という見方にはかなり使えます。
つまり LED 栽培で 色をいじる というのは、単に 育つ / 育たない ではなく、何を動かしたいのかを決める行為 です。
もっと色の話を掘るなら、Aloe arborescens のLED論文を読む。赤色と青色で何が変わるのか を本編として見たほうが早いですし、far-red(遠赤色光)の使い方まで広げるなら 遠赤色光はいつ足すべきか。レタス論文から読む収量とアントシアニン もつながります。
LED で育った葉は、その光で作られている
室内 LED 栽培で見落としやすいのがここです。
棚の上で数か月作った葉は、ただ そこで耐えている葉 ではなく、その光環境で作られた葉 かもしれません。
LED育ちの株はなぜ外で変わるのか。光質順化の論文を読む
で扱った 2016 年の Scientia Horticulturae 論文の Highlights には、
"Plant properties like leaf area and internode length were affected by light source."
"The spectral properties of the leaves were affected by light source."
"The specific photosynthesis capacity was higher for leaves developed in LED light."
とあります。
ここがかなり重要で、LED の影響は 姿が締まるかどうか だけにとどまりません。
少なくともこの試験では、葉の性質そのものが変わっています。
さらに、Agave angustifolia の順化論文を読む。なぜ培養苗は外で落ちやすいのか
で見た 2015 年の Scientia Horticulturae 論文では、
"Acclimatization is still necessary for full development of stomata, waxes and papillae."
と整理されています。
こちらは in vitro から ex vitro への順化論文なので、そのまま通常栽培へ移すのは危険です。
ただ、環境が変わると葉の表面構造まで作り直しが要る という話は、室内 LED 栽培から屋外へ移すときの読み筋としてかなり強いです。
要するに、室内 LED 栽培が楽しいのは 室内だけで完結する からではありません。
この葉はどの光で作られたのか を意識すると、外へ出したときの変化も観察対象になります。
前半の光条件は、後半にも残る
LED 栽培を単なる維持環境ではなく 設計できる栽培 として面白くする論点が、carry-over effect(持ち越し効果)です。
同じく 育苗を適当にしない理由。レタス論文から読む光条件の持ち越し効果
では、Highlights に
"Lighting environment at seedling stage influenced mature lettuce yield."
とあります。
しかもこの論文は、育苗後の環境を揃えてから収穫時の差を見ています。
つまり あとで同じ棚に置くから大丈夫 とは限らず、前半に受けた光が後半の株にも残る と読めます。
これは家庭園芸でもかなり気持ちの良い論点です。
なぜなら、LED 栽培の面白さが 今この瞬間の見た目 だけではなく、
- 実生初期をどう作るか
- 冬の維持葉をどう作るか
- 春に更新される新葉をどう作るか
という 前半戦の設計 に広がるからです。
室内 LED 栽培は、何をいじると面白いのか
ここまでの論文群を束ねると、LED 栽培の面白さは ただ強い光を当てること ではなく、次の順でダイヤルを分けて触れることにあります。
- まず
DLIで総量を疑う - 次に
PPFDとphotoperiodのどちらを動かしているかを見る - それでも姿や反応が気になるなら
spectrumを別論点として扱う - 置き場変更や季節移行では
順化した葉を前提にする - 実生や育苗では
前半の光が後半まで残る前提で考える
この順にすると、LED 栽培はかなり楽しくなります。
もっと明るくする しか打ち手がない状態から抜けて、いま自分が何のダイヤルを触っているのか が分かるからです。
逆に、このページからすぐに答えを出そうとしないほうがよい論点もあります。
何 cm が正解かどの LED 製品が最強か多肉植物全般の最適 DLI白色 LED と赤青 LED の最終勝敗
このあたりは、このテーマ論文記事の結論ではなく、別条件の比較や別記事の役割です。
似た記事が必要になったら
このページを本記事として読みつつ、細い論点だけ掘りたいときは次がつながります。
DLIをちゃんと分けたい: DLIとは何か。日積算光量は高ければ高いほどよいのか光質順化を詳しく見たい: LED育ちの株はなぜ外で変わるのか。光質順化の論文を読む培養苗の順化を構造寄りで見たい: Agave angustifolia の順化論文を読む。なぜ培養苗は外で落ちやすいのか育苗の持ち越し効果を詳しく見たい: 育苗を適当にしない理由。レタス論文から読む光条件の持ち越し効果LED の色を具体例で見たい: Aloe arborescens のLED論文を読む。赤色と青色で何が変わるのか- 実践寄りの古い栽培記録を見る: 多肉植物を水槽を利用してLEDライトで室内栽培するまとめ(2020年8月〜更新中)
このテーマからまだ言えないこと
- 室内 LED 栽培は一般論として屋外より優れるか
- 多肉植物や塊根植物で共通の
最適 DLIがあるか 締まって見える葉が、別環境でもそのまま強いか光質の差が、葉温や風の差を超えてどこまで単独で効いているか
このページは、室内 LED 栽培をどう楽しむか を論文ベースで整理する本記事です。
ただし結論は 全部分かった ではなく、何を分けて観察すると面白くなるかが見えてきた にとどめるほうが、今の論文群には合っています。