遠赤色光はいつ足すべきか。レタス論文から読む収量とアントシアニン

遠赤色光の話は、LED 栽培をしていると一度は気になります。
葉を広げる、草姿が変わる、収量が伸びると言われる一方で、色が抜ける、締まりがなくなる、品質が落ちる とも言われがちです。
今回の論文は、その曖昧なところをかなり実務寄りに見ています。
赤葉レタスを使って、
- 最初から最後まで白色光だけで育てる
- 後半だけ遠赤色光を足す
- 前半だけ遠赤色光を足し、後半では外す
- 最初から最後まで遠赤色光を足す
の 4 条件を比較しています。
結論を先に書くと、この論文は 遠赤色光は「足すか足さないか」より、「いつ足して、いつ外すか」で読むべき と示しています。
少なくともこの試験では、生育前半に遠赤色光を足し、後半では白色光だけに戻す 条件が、収量とアントシアニンのバランスを取りやすい読みになっています。
まず結論
園芸向けに先に抜き出すと、今回の論文はこう読めます。
- 遠赤色光は、生育前半の
canopy expansion(葉群の広がり)にかなり効く - その効果は後半に遠赤色光を外してもある程度残る
- 一方で、遠赤色光を収穫直前まで入れ続けると
anthocyanin(アントシアニン)やascorbic acid(アスコルビン酸)が下がりやすい - つまり
収量を伸ばす光と色や機能性を保つ光は同じではない - 少なくともこの試験では、前半で遠赤色光、後半は白色光 がかなり有力
家庭園芸に引きつけるなら、遠赤色光は常時の味付けではなく、生育ステージごとのダイヤルとして扱ったほうがよい という読みです。
この 生育ステージごとに光を切り替える という発想は、育苗を適当にしない理由。レタス論文から読む光条件の持ち越し効果 とかなり相性がよいです。こちらは seedling stage の光条件が後半まで残る、という別角度の論文です。
この論文は何を見たのか
Abstract の方法はかなり読みやすいです。
対象は赤葉レタス Lactuca sativa Red Fire、栽培期間は 6 週間です。
白色光は 5000 K、300 μmol m⁻² s⁻¹ で固定し、遠赤色光を足す条件では追加で 100 μmol m⁻² s⁻¹ を与えています。
photoperiod(点灯時間)は 16 h です。
比較したのは次の 4 条件です。
W- 6 週間ずっと白色光
W to W + FR- 前半 4 週間は白色光、後半 2 週間だけ遠赤色光を追加
W + FR to W- 前半 4 週間だけ遠赤色光を追加、後半 2 週間は白色光のみ
W + FR- 6 週間ずっと遠赤色光を追加
ここがこの論文の良いところで、単に FR あり / なし を比べたのではありません。
生育のどの段階で遠赤色光を使うか まで比較しています。
見ている指標も広めです。
shoot fresh massとshoot dry weightleaf areacanopy expansionCO2 assimilation ratestomatal conductanceanthocyaninascorbic acid- アントシアニン合成関連遺伝子の発現
つまりこの論文は、遠赤色光が
- 単に株を大きくするのか
- どの段階で効くのか
- 色や品質とどうトレードオフになるのか
を一度に見ています。
要旨で拾うべきポイント
Abstract の Key Results でまず大きいのはここです。
"Shoot dry weights in W+FR, W+FR to W, and W to W+FR were significantly higher than those in W."
W+FR、W+FR to W、W to W+FR の shoot dry weight は、白色光のみの W より高かったとされています。
つまり、遠赤色光をどこかの段階で入れると、少なくとも最終的な biomass(乾物重)は伸びやすい、ということです。
ただし、ここで重要なのは どの条件がいちばん扱いやすいか です。
同じ要旨では、
"Both W+FR and W+FR to W promoted canopy expansion."
W+FRとW+FR to Wでcanopy expansionが大きいstomatal conductanceには有意差がないWとW+FR to Wでは、測定時に遠赤色光を足すとCO2 assimilation rateが高まるanthocyanin accumulationはWとW+FR to Wで大きい
と整理されています。
この読みはかなり面白いです。
- 前半だけ遠赤色光を入れると、葉群の広がりや biomass の伸びは取りやすい
- しかも後半で白色光だけに戻すと、赤葉レタスに重要な
anthocyaninも維持しやすい
ということだからです。
逆に言うと、遠赤色光をずっと入れ続けると、収量側では有利でも、色や機能性成分の面では不利になりやすい と読めます。
ここで品質側の根拠になる原文も押さえておきたいです。
"Anthocyanin accumulation was significantly increased in W and W+FR to W treatments compared with W+FR and W to W+FR."
つまり、少なくともこの試験では 後半まで遠赤色光を引っ張らないほうが、赤みは残りやすかった ということです。
園芸にどう読むか
1. 遠赤色光は「広げる」段階で使う
この論文のいちばん実務的な持ち帰りはここです。
遠赤色光は、生育前半に入れることで canopy expansion を促し、最終収量の土台を作りやすいと読めます。
葉群が早めに広がれば、その後の光の受け方も変わります。
家庭園芸でも、
- 苗の立ち上がり
- 葉を早めに展開させたい段階
- 棚の面を埋めたい段階
では、遠赤色光を入れる意味がありそうです。
ただし、この論文は 最後まで入れ続けろ とは言っていません。
その点は、著者たちのまとめ方もかなり明快です。
"Far-red light in the early growth stages can increase shoot biomass while preserving anthocyanins at harvest."
2. 色を残したいなら、後半で外す
赤葉レタスで anthocyanin が落ちるのは、園芸でもかなり分かりやすい現象です。
見た目の赤みが抜ける、締まりがなく見える、という変化に近いです。
今回の論文では、後半で遠赤色光を外した W+FR to W が、
- biomass
- canopy expansion
- anthocyanin
のバランスでかなり良い位置に来ています。
つまり、遠赤色光は前半で形を作るために使い、後半では品質側に戻す という考え方です。
これはレタスだけでなく、室内 LED 栽培全般でもかなり使いやすい整理です。
- 最初は葉数や面積を取りたい
- でも最後は色や締まりを崩したくない
という場面は多いからです。
強く短く と 弱く長く をどう分けて考えるかは、DLIとは何か。日積算光量は高ければ高いほどよいのか が補助線になります。遠赤色光そのものの話ではありませんが、光量と点灯時間を分けて考える土台としてつながります。
3. FR を足す = いつでもよい ではない
遠赤色光の話は、ときどき
- とにかく足すと伸びる
- だから収量が増える
- なら常時入れたほうがよい
という流れになりがちです。
でもこの論文を読むと、そう単純ではありません。
遠赤色光は、
- 生育初期の形態形成
- 後半の色素維持
- 収穫時の品質
に対して同じ方向には効いていません。
だから FR は、白色光や赤青光に対して常時上乗せする固定パーツではなく、生育ステージごとに役割が変わる光 と読むほうが自然です。
要旨をそのまま縮めるなら、論点はかなりシンプルです。
"Far-red light in the early growth stages..."
"...boosts lettuce biomass and preserves anthocyanins."
多肉や塊根にどう引きつけるか
この論文はレタスなので、多肉や塊根にそのまま移植はできません。
ただ、室内 LED 栽培の考え方としてはかなり重要です。
このサイトでも、
のように、光は強さだけでなく、いつ・どの波長を・どの段階で当てるか で読む流れが出てきています。
今回の論文も、その延長で理解できます。
多肉や塊根でかなり雑に読み替えるなら、
- 生育前半では葉や体を広げる光
- 後半では色や締まりを戻す光
という役割分担があるかもしれない、ということです。
少なくとも、遠赤色光を常時オンにするかどうか だけで考えるより、
- 前半だけ入れる
- 後半だけ入れる
- 最後は外す
という運用のほうが検証価値は高そうです。
実際の室内棚で、こうした 前半と後半で光の役割を変える 発想をどう運用するかは、多肉植物を水槽を利用してLEDライトで室内栽培するまとめ(2020年8月〜更新中) も合わせて見るとイメージしやすいです。こちらは論文ではなく実践記録ですが、棚設計や照明距離をどう考えるかの実地側に当たります。
気になる限界
この論文はかなり実務寄りですが、限界もあります。
- 対象は
Lactuca sativaRed Fireという赤葉レタス 1 品種 - 栽培は商用 PFAL(植物工場)条件
- 白色光 300 に対して遠赤色光 100 を追加する、かなり明確な設計
なので、
- 多肉や塊根で同じ比率がそのままよい
- 遠赤色光は前半 4 週間が最適
- 赤みが落ちる植物は全部同じ反応をする
とまでは言えません。
それでも、
- 遠赤色光は常時ではなく段階的に使い分ける
- 収量と色素を分けて評価する
FRの有無ではなく、FR をいつ使うかを問う
という論点は、そのまま持ち帰れます。
まとめ
Far-red light in early growth stages boosts lettuce biomass and preserves anthocyanins は、遠赤色光をどう使うかをかなり実務的に考えられる論文です。
少なくともこの試験では、
- 生育前半の遠赤色光は biomass を押し上げやすい
- その効果は後半で遠赤色光を外してもある程度残る
- 一方で、遠赤色光を後半まで引っ張ると
anthocyaninやascorbic acidは下がりやすい
と読めます。
つまり、結論はかなりシンプルです。
遠赤色光は「いつも足す光」ではなく、「前半に使って、後半では外すことも考える光」 です。
これは LED 棚の設計でも、植物工場の光レシピでも、かなり強い考え方だと思います。