DLIとは何か。日積算光量は高ければ高いほどよいのか

LED 栽培では、つい PPFD(光合成有効光量子束密度)の数字や spectrum(スペクトル)の見た目に目が行きます。
そこへさらに 何時間点けるか が混ざるので、話がかなり散らかりやすいです。
ここで便利なのが DLI(daily light integral, 日積算光量)です。
ざっくり言えば、その日1日で植物が合計どれくらい光を受けたか を見る指標です。
ただし、ここでまた雑になりやすいのが、
DLIが高いほどよいのかPPFDが高ければDLIもよいのか- 点灯時間を伸ばせば同じことなのか
- スペクトルの違いは
DLIで吸収して考えてよいのか
という点です。
結論を先に書くと、DLI はかなり便利ですが、高ければ高いほどよい とまでは言いにくいです。
少なくとも論文ベースでは、DLI は 光の総量 を整理するには有効ですが、光の強さ、当てる時間、スペクトル、葉温、植物の段階差 まで全部1つに畳めるわけではありません。
まず結論
DLI(daily light integral, 日積算光量)は、1日トータルの光量を見るための便利な指標- ただし
DLIは、PPFD(その瞬間の光の強さ)とphotoperiod(点灯時間)をまとめた値であって、spectrum(スペクトル)まで同じにするものではない - 少なくとも既存の論文群では、
DLIは高ければ高いほどよい、とは読めない - 同じ
DLIでも、強く短くと弱く長くが同じ反応になるとは限らない - LED 栽培では、
PPFD、photoperiod、DLI、spectrumを別のダイヤルとして見るほうが整理しやすい
家庭園芸に引きつけると、LED を強くするか、長く点けるか、スペクトルを変えるかを一気に決めない のが大事です。
まず 1日トータルで足りているか を DLI で見て、その次に 強すぎるのか、長すぎるのか、光質が合っていないのか を分けるほうが実務的です。
まず DLI とは何か
PPFD は、ある瞬間に植物へ届いている photosynthetic photon flux density(光合成に使える光の粒の密度)です。
一方 DLI は、その PPFD を 1日ぶん積み上げた値 です。
かなり雑に言うと、
PPFD(光合成有効光量子束密度)- 今この瞬間にどれだけ強く当たっているか
photoperiod(点灯時間)- 何時間当てるか
DLI(日積算光量)- その2つを合わせた1日トータルの光量
です。
なので DLI が便利なのは、
強い光を短時間弱い光を長時間
を、ある程度同じ土俵で比べやすいことです。
ここで重要なのは、DLI は 光の総量 を整理する概念であって、
- 光の波長分布
- 葉の受け方
- 葉温
- 光を当てる時間帯
まで全部等価にする魔法の指標ではない、という点です。
DLI が便利なのは、どこを分けて見やすいからか
LED 栽培でよく混ざるのは次の4つです。
PPFD(強さ)photoperiod(時間)DLI(1日トータル)spectrum(光の中身)
この4つを同じ話にすると、
- 強くしたのが効いたのか
- 長くしたのが効いたのか
- 1日量が足りていなかったのか
- 青や赤の比率が効いたのか
が分からなくなります。
DLI の良いところは、少なくとも 強さ と 時間 を掛け合わせた 1日量の整理 を先に作れるところです。
LED の距離や照明時間を変えるときに、今の棚はそもそも総量が足りているのか を考えやすくなります。
では DLI は高ければ高いほどよいのか
ここは、少なくとも yes(はい)と単純化しないほうがよいです。
いちばん分かりやすいのが、2019年の Scientia Horticulturae
育苗を適当にしない理由。レタス論文から読む光条件の持ち越し効果
で扱った hydroponic lettuce(養液栽培レタス)の試験です。
この論文の Highlights には、
"Daily light integral of 11.5 mol m−2 d−1 was appropriate for seedling growth."
とあります。
ここで重要なのは、
appropriate(適量)と書いているmaximum(最大がよい)とは書いていない
という点です。
実際、同論文では
PPFD 200photoperiod 16 h
の組み合わせがかなりよく、PPFD 250 に上げれば自動的によくなる、という形では読めませんでした。
つまり少なくともこの試験では、DLI にも ちょうどよい帯 があると読めます。
同じ DLI なら、強く短くと弱く長くは同じなのか
ここも、たぶん雑に同じとは言えません。
DLI は PPFD と photoperiod を一緒に整理するのに便利ですが、植物の反応はその2つを完全には同一視しません。
少なくとも既存記事で扱った 2024年の Scientia Horticulturae
育苗LEDは何色がよいのか。レタス類の論文から読む発芽率と苗姿
では、photoperiod(点灯時間)が伸びると、同じスペクトルでも shoot height(草丈)や leaf area(葉面積)の出方が変わっていました。
ここから引ける一般論は、
- 光は
総量だけでなく どれくらいの強さでどれくらいの長さ
当たったかでも反応が変わる、ということです。
要するに、DLI は useful(便利)ですが、DLI さえ合わせれば反応も同じ とまでは言えません。
ここは、実際の LED 管理に引きつけるとかなり気になるところです。
つまり、
- 光の強さを半分にする
- 代わりに点灯時間を2倍にする
と、DLI の数字だけ見れば近い値にできます。
ですが、それで植物側の反応まで完全にイコールになるとは、少なくとも今のところ雑には言えません。
理由は単純で、植物は 1日トータルの量 だけでなく、
- その瞬間の光がどれくらい強かったか
- どれくらい長く当たり続けたか
- そのあいだ葉温や蒸散がどう動いたか
にも反応するからです。
かなり乱暴に言えば、
強く短く- 局所的なストレスや葉焼けリスクは上がりやすい
弱く長く- 形は穏やかでも、締まりや反応の強さが変わることがある
という違いが残りえます。
なので、DLI は
総量の目安としては近い
と読めても、
植物の見え方や反応まで完全に同じ
とは読まないほうが安全です。
spectrum(スペクトル)は DLI で吸収して考えてよいのか
ここも分けたほうが安全です。
DLI は基本的に、photosynthetically active radiation(光合成有効放射)側の量を積み上げた指標です。
ですが、実際の LED 栽培では、
blue(青)red(赤)far-red(遠赤)UV(紫外)- 白色 LED の広い帯域
の違いで、葉の姿や反応の質が変わります。
既存記事で言えば、
- Aloe arborescens のLED論文を読む。赤色と青色で何が変わるのか
- 赤と青で
増殖量と反応の質の見え方が違う
- 赤と青で
- LED育ちの株はなぜ外で変わるのか。光質順化の論文を読む
- 光質が違うと葉そのものの作られ方が変わる
と読んでいます。
なので、DLI が同じでも、
- スペクトルが違う
- 葉温が違う
- 光の当たり方が違う
なら、結果まで同じとは言えません。
では DLI をどう使うと実務的か
LED 栽培で DLI が使いやすいのは、まず 総量不足かどうか を見る場面です。
たとえば、
- なんとなく弱そう
- 点灯時間を伸ばすべきか迷う
- 距離を詰めるべきか迷う
というとき、PPFD だけでは判断しにくいことがあります。
逆に DLI で見ると、今の棚は1日トータルでそもそも少ないのか、多すぎるのか を考えやすいです。
そのうえで次の順に見ると整理しやすいです。
- まず
DLI(日積算光量)で総量が極端に足りていないかを見る - 次に
PPFD(光合成有効光量子束密度)が強すぎて局所ダメージになっていないかを見る - その次に
photoperiod(点灯時間)が長すぎて無理をかけていないかを見る - 最後に
spectrum(スペクトル)や葉温、置き場差を見る
つまり DLI は 全部を説明する答え ではなく、最初に棚全体の量感を整えるための物差し として使うほうが強いです。
多肉や塊根ではどう読むか
ここは慎重さが必要です。
今回の土台にしている一次ソースは、主にレタスなどの horticultural crops(園芸作物)です。
なので、多肉や塊根にそのまま
DLI いくつが正解この点灯時間が正解
とはまだ言えません。
ただし、園芸判断としては次の視点がかなり使えます。
PPFD(光合成有効光量子束密度)の数字だけで安心しない- 点灯時間だけで押し切らない
DLIを見ると1日トータルの不足や過剰を考えやすい- そのうえで、徒長、葉焼け、色の変化、葉の厚みを別で観察する
特に多肉では、
- 強く近く当てると葉が焼ける
- 弱く遠く長く当てると締まりが足りない
- 同じ
DLIでも見え方が違う
ということが十分ありえます。
だからこそ DLI は、距離、時間、スペクトルを一気に雑に決めないための整理軸 として使うのがよさそうです。
このテーマからまだ言えないこと
このテーマだけからは、次のことまでは言えません。
- 多肉植物や塊根植物で最適な
DLIがいくつか - 同じ
DLIなら、どのスペクトルでも同じように育つこと 強く短くと弱く長くが常に同じ反応になることDLIだけ見れば LED 栽培の設計が完了すること
要するに今回は、DLI はかなり useful(便利)だが、それだけで植物反応を全部説明する指標ではない、というところまでが安全圏です。
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参考にした主なソース
Evaluation of growth and quality of hydroponic lettuce at harvest as affected by the light intensity, photoperiod and light quality at seedling stageScientia Horticulturae 248(2019)- DOI:
10.1016/j.scienta.2019.01.002
The effect of different light wavelengths on the germination of lettuce, cabbage, spinach and arugula seeds in a controlled environment chamberScientia Horticulturae 331(2024)- DOI:
10.1016/j.scienta.2024.113118
Acclimatisation of greenhouse crops to differing light qualityScientia Horticulturae 204(2016)- DOI:
10.1016/j.scienta.2016.03.035
In vitro culture of Aloe arborescens shoots using light-emitting diodesActa Horticulturae 1155(2017)- DOI:
10.17660/ActaHortic.2017.1155.60