アザミウマはどの波長を見ているのか。視覚論文を読む

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アザミウマは本当に厄介です。
葉の表面を傷めるだけでなく、新芽や成長点に入ると見た目もかなり悪くなります。

園芸では

  • 何色の sticky trap(粘着トラップ)が効くのか
  • LED の色で虫の動きは変わるのか
  • 青や緑がよいのか、紫外が効くのか

といった話が出がちですが、その土台になるのは 虫がそもそもどの波長を見ているか です。

今回の論文は、electroretinogram(網膜電位計測)で Frankliniella occidentalis の spectral efficiency(分光感度)を見ています。

結論を先に書くと、

  • ミカンキイロアザミウマの視覚感度には 2 つのピークがある
  • 1 つは ultraviolet(紫外)
  • もう 1 つは visible(可視光)側で、λmax around 540 nm
  • 雌雄差はかなり小さい

という結果です。

つまり、アザミウマはざっくり言えば 紫外と green(緑)付近を強く見ている と読めます。
ここから先の「何色に寄るか」は行動実験が必要ですが、少なくとも視覚系の土台としてはかなり重要です。

まず結論

園芸向けに先に抜き出すと、今回の論文はこう読めます。

  • ミカンキイロアザミウマは UV(紫外)と green(緑)付近に感度ピークを持つ
  • λmax around 540 nm は、かなり green 寄り
  • 雌雄差は最小限で、female が UV 側でわずかに高い程度
  • したがって、色トラップや LED の議論では green / yellow-greenUV を外しにくい
  • ただし、感度が高い = そのまま最も attract(誘引)される とは限らない

家庭園芸に引きつけるなら、

  • アザミウマ対策で色を考えるなら、まず UVgreen を意識したい
  • ただし LED の色を変えるだけで解決するとは言えない
  • trap 色、反射、光強度、植物側の状態まで合わせて見るべき

くらいが安全な読みです。

この論文は何を見たのか

Abstract はかなり明快です。

"we recorded the thrips' electroretinogram from 365 to 620 nm"

つまりこの論文は、365–620 nm の範囲でアザミウマの目の反応を計測しています。

ここでいう electroretinogram(網膜電位計測)は、ざっくり言うと目がどの波長の光にどれだけ反応したか を電気信号で見る方法です。

見ているのは行動そのものではなく、peripheral visual system(末梢視覚系) の感度です。
つまり、

  • 何色を見分けているか
  • どこに感度の山があるか

を探る研究です。

Abstract で拾うべきポイント

要点はここです。

"two peaks of spectral efficiency"

"one in the ultraviolet range and one in the visible"

"with λmax around 540 nm"

この 3 行でほぼ芯が出ています。

つまりミカンキイロアザミウマの視覚感度は、

  • ultraviolet range(紫外域)
  • visible(可視光)側の around 540 nm

の 2 山構造です。

540 nm は、だいたい green(緑)付近です。
園芸的には、黄色粘着板や黄緑寄りトラップの話とつなげやすい波長帯です。

さらに重要なのがここです。

"Differences between the sexes were minimal"

"females having a greater efficiency than males in the ultraviolet"

つまり雌雄差はかなり小さいです。
female が UV 側で少し高い程度で、視覚系そのものの違いは大きくない、と読めます。

ここは少し慎重に読みたい

この論文は便利ですが、行動そのもの を見た論文ではありません。

Abstract の最後では、

"not solely due to differences in spectral properties of the photoreceptors"

"results from higher order processing mediating the behavioural choices"

としています。

ここはかなり大事です。
つまり、

  • 目の感度だけでは説明しきれない
  • 実際にどの色へ飛ぶかは、より上位の処理が関わる

ということです。

だからこの論文をそのまま

  • 540 nm に一番寄る

とは読めません。

安全に言えるのは、

  • UVgreen 付近を見ている
  • でも attract / repel は別途行動実験で見る必要がある

までです。

園芸にどう使えるか

1. green / yellow-green はやはり無視しにくい

λmax around 540 nm は、かなり green 寄りです。

園芸では黄色や黄緑のトラップがアザミウマやコナジラミで話題になりますが、この論文は少なくとも 緑付近の感度ピーク という形で、その感覚を補強します。

つまり、

  • 葉の反射
  • 黄緑の粘着板
  • 周辺の反射物

が、視覚的にはかなり無関係ではなさそうです。

2. UV もかなり重要

もうひとつのピークが ultraviolet です。

これはかなり面白いです。
園芸的には、

  • UV を切るフィルム
  • UV を含む照明
  • 自然光と室内光の差

を考える余地が出てきます。

少なくとも、アザミウマを考えるときに visible light(可視光)だけ見ていると片手落ちです。

3. 感度誘引 を混同しない

この論文でいちばん大事なのはここです。

  • よく見えている波長
  • 実際に寄る波長

は同じとは限りません。

たとえば人間でも、見える色と好きな色は別です。
虫でも同じで、

  • 感度ピーク
  • 行動選好
  • 植物との組み合わせ

が全部ずれることがあります。

なので、この論文は 色トラップの答えそのもの ではなく、答えを考えるための視覚側の土台 として使うのがよいです。

通常栽培に引きつけるとどう読むか

この論文を家庭園芸にかなり雑に引きつけるなら、次のような読み方ができます。

  • アザミウマが出やすい棚で色を考えたい
    • greenUV をまず意識したい
  • 黄色トラップが効く理由を知りたい
    • 少なくとも緑寄りの感度ピークは、その感覚とつながる
  • LED の色で虫を避けられないか
    • 感度情報だけでは決められない
    • 行動実験や光強度まで必要

つまり、照明やトラップを考えるときは

  • spectral efficiency(分光感度)
  • phototactic behavior(光走性)
  • light intensity(光強度)

を分けて見る必要があります。

この論文からまだ言えないこと

この論文だけからは、次のことまでは言えません。

  • 何色の sticky trap が最も効くか
  • 紫 LED でアザミウマを減らせるか
  • 室内 LED 棚で実害が減るか
  • ハダニやコナジラミと同じ反応をするか

今回はあくまで、Frankliniella occidentalis の視覚感度を測った 1 本です。
ただし、アザミウマを 虫がいる / いない ではなく、どの波長を見ているか から考え直す入口としてはかなり良い論文です。

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参考

yurupo

yurupo

cf. yurupu. RE:YURUPUの編集長、植物記事の編集、ライティングを担当