Aglaonema はどう増やされるのか。育種と組織培養の論文を読む

Aglaonema は観葉植物として流通量が多いわりに、
- どう交配されているのか
- どう増やされているのか
- なぜ品種によって扱いやすさが違うのか
は、買う側からは見えにくい属です。
今回の論文はかなり情報量が多く、しかも面白いです。
結論を先に書くと、
GA3(gibberellic acid, ジベレリン酸)で flowering(開花)を入れて hybridization(交配)をしやすくするchromosome number(染色体数)やgenetic relationship(遺伝的関係)を見て組み合わせを考えるtissue culture(組織培養)で healthy plants(健全株)を rapid multiplication(大量増殖)するex vitro acclimatization(培養外順化)では、shade greenhouse(遮光温室)の中でも光量に適域がある
という、観葉植物の育種と増殖の流れをかなりまとめて見せてくれる 1 本です。
まず結論
園芸向けに先に抜き出すと、今回の論文はこう読めます。
Aglaonemaの品種づくりでは、葉模様や色だけでなく flowering control(開花制御)がかなり重要- cultivar(品種)ごとに
23–48 weeksで反応差があり、GA3 250 ppmで flowering を入れられる - 系統差は見た目だけでなく
chromosome numberやRAPDにも出る - 増殖は
tissue cultureが有力で、inflorescence(花序)を explant(外植片)に使うのが contamination(汚染)を減らす - 順化では
130 μmol m⁻² s⁻¹の shaded greenhouse(遮光温室)が、少なくともこの試験では dry weight(乾物重)で有利
家庭園芸に引きつけるなら、アグラオネマは「なんとなく増えている観葉植物」ではなく、開花制御、交配、組織培養、順化条件までかなり設計されている属 と読む記事です。
この論文は何を見たのか
Abstract の最初で、著者たちは Aglaonema 育種の目的をはっきり書いています。
"Breeding for Aglaonema (Araceae) cultivars with beautiful foliar variegation and color has long been the prevailing goal."
つまり主眼は、beautiful foliar variegation and color(美しい斑と葉色)を持つ cultivars(品種)づくり です。
そのために見ているのが次の 4 本柱です。
regulation of flowering(開花制御)chromosome number(染色体数)genetic relationship(遺伝的関係)micropropagation(組織培養による増殖)
これが良くて、単なる増殖論文ではありません。
どう交配し、どう増やし、どう市場へ乗せるか がまとまっています。
要旨で拾うべきポイント
まず開花誘導です。
"Plants flower within 23 to 48 weeks, depending on the cultivar, following a single spray with 250 ppm gibberellic acid (GA3)."
ここから、
GA3(gibberellic acid, ジベレリン酸) 250 ppm の 1 回散布で flowering が入る- ただし cultivar によって
23–48 weeksとかなり差がある
と読めます。
つまり、Aglaonema は「咲きにくいから交配しにくい」のではなく、咲かせ方はあるが、系統差がかなり大きい属 と見るのが自然です。
次に遺伝的なばらつきです。
"RAPD analysis on 61 accessions showed that Aglaonema genotypes are highly diverged and could be clustered into seven groups."
ここは観葉植物としてかなり面白いです。
見た目の違いだけでなく、61 accessions の RAPD analysis で highly diverged(かなり離れた)genotypes と読まれています。
染色体数も揃っていません。
"Cultivars ‘Curtisii’ and ‘Galaxy’ are diploid (2n = 40), ‘Pride of Sumatra’ and ‘Chalit’s Fantasy’ have 50 and 60 chromosomes, respectively."
つまり Aglaonema の園芸品種は、かなり均一な属として扱えない部分があります。
増殖ではここが重要です。
"Tissue culture is preferable for rapid multiplication of healthy plants."
要するに、健全株を早く大量に増やすなら tissue culture がよい、ということです。
さらに面白いのが explant の選び方です。
"The inflorescence was an alternative source of explants to reduce endogenous microbial contamination"
つまり inflorescence(花序)を explant にすることで、endogenous microbial contamination(内生微生物による汚染)を減らす方向です。
最後に順化です。
"After transferring to a shaded greenhouse, plants under 130 μmol.m−2.s−1 during ex vitro acclimatization had higher dry weight than those under 80 or 200 μmol.m−2.s−1."
ここはかなり園芸に読み替えやすく、少なくともこの試験では
80130200 μmol m⁻² s⁻¹
の中で、130 が dry weight(乾物重)でよかったと読めます。
園芸にどう読むか
1. Aglaonema は「葉模様の観葉植物」以上に、育種設計された属
普段は葉模様ばかり見がちですが、この論文を読むと、
- 開花をどう揃えるか
- 交配のために何を見ているか
- 系統差をどう把握しているか
までかなり詰めているのがわかります。
つまり Aglaonema は、単に「きれいな葉の観葉植物」ではなく、育種と流通の技術が強く入っている属 です。
2. 増やせる と 順化できる は別
培養論文では、つい multiplication(増殖)だけを見てしまいがちです。
でもこの論文で実用的なのは、順化光量まで触っているところです。
つまり、
- 瓶の中で増える
- 外で育つ
は別です。
これは今の観葉植物全般にもかなり当てはまります。
見た目がきれいな培養苗でも、ex vitro acclimatization が弱いと、その後の棚で崩れやすいはずです。
3. 130 μmol m⁻² s⁻¹ は、少なくとも強すぎない遮光温室の目安として読める
ここをそのまま家庭園芸へ持ち込むのは危険ですが、方向性としてはかなり使えます。
少なくともこの試験では、
- 暗すぎてもだめ
- 強すぎてもだめ
- 中間の
130 μmol m⁻² s⁻¹がよい
という読みです。
つまり Aglaonema の順化では、最初から強く当てれば締まる とは限らない、ということです。
通常栽培に引きつけるとどう読むか
この論文を家庭園芸に寄せて読むなら、次のようなケース分けができます。
輸入直後や培養由来の観葉植物- 葉姿が整っていても、順化が終わっているとは限らない
- とくに強光へ急に振らないほうがよい
Aglaonema を増やしたい場面- 株分けや挿し木だけでなく、流通の裏では tissue culture がかなり重要
- 市場に安定供給される背景を理解しやすい
品種差を見たい場面- 反応差は見た目だけでなく genetic background(遺伝的背景)にもある
- 「同じアグラオネマだから同じ管理」で雑にまとめすぎない
つまり、Aglaonema は耐陰性観葉植物として一括りにされがちだが、育種・系統・順化条件の差がかなり大きい属 と考えるとわかりやすいです。
この論文からまだ言えないこと
この論文だけからは、次のことまでは言えません。
- 家庭栽培で最適な PPFD が何か
Aglaonema pictum系でも同じ順化光量がよいか- すべての cultivar に
GA3 250 ppmが同じように効くか - 現在の commercial propagation(商業増殖)でも同じ培地組成が主流か
あくまで今回は、Aglaonema の育種と増殖をまとめて見た 1 本です。
ただし、観葉植物もまた、開花制御、交配、組織培養、順化の設計で成り立っている という視点はかなり強いと思います。
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参考
Breeding and micropropagation of AglaonemaActa Horticulturae 755(2007) 93-98- DOI:
10.17660/ActaHortic.2007.755.10 - ISHS: https://www.actahort.org/books/755/755_10.htm



